しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

AIとの共存社会

先月27日の朝日新聞デジタル版「論壇時評」に、

歴史社会学者・小熊英二さんの論評が掲載されていました。

タイトルは『人間と機械~AIが絶対できないこと』で、

その冒頭は、「将棋の藤井聡太四段は、AI(人工知能)に勝てるだろうか。」

という質問で始まります。

その答えの前提として、次のような分かりやすく説得力のある解説がありました。

 

・いわば現行のAIは、保守的な性格を持つともいえる。

 「イノベーション」を説明する例え話として、

 「馬車をいくらつないでも鉄道にはならない」というものがある。

 それと同様に、馬車のビッグデータをAIに学習させても、

 鉄道の発明には直結しない。むしろそれは、馬車の改良を促してしまうだろう。

・もちろん人間は、歴史を学ぶことで、未来を革新できる。

 だがそのためには、過去のデータから、統計的に例外でも重要な事例に着目し、

 価値を与えることが必要だ。そういうことは、AIにはできない。

 AIにできるのは、過去の延長で未来を予測することだけだ。

・つまり問題はこうだ。AIそのものは新しい価値や成長を生み出すわけではない。

 イノベーションを起こすには、新しい価値や、社会制度の変革が必要だ。

 だがそれは、人間にしかできない。

・「人間はAIに勝てるか」という問いがある。

 だが実は、人間は昔から機械に負けている。 自動車より早く走れる人はいない。

 しかしそのことで、「人間は自動車に負けた」と嘆く人はいない。

 それは、自動車を人間の補助として使いこなせるように、

 社会のあり方を革新(イノベーション)したからだ。

 人間が機械に勝てるとすれば、機械と競争することによってではなく、

 機械と共存できるように社会を革新することによってである。

・新技術の導入だけで経済が成長するなどという期待は、

 高度成長への誤解に基づくノスタルジーにすぎない。

 古い社会や古い政治を延命するためにAIを使えば、多くの人が犠牲になる。

 それこそ、「人間がAIに負ける」という事態にほからならない。

 そうではなく、AIと共存できる社会に変えていくために、

 人間にしかない英知を使うべきだ。

 

う~む、なるほど……。大変勉強になりました。

AIの本質というものが理解できたように思います。

AIをおそれるよりも、むしろ、人間の英知が失われることを

私たちは心配すべきなのですね……。

 

なお、冒頭の答えは次のようなものでした。

『彼はAIに勝とうとしていない。

 AIを相手に練習し、AIを自分を磨く道具にした。

 まるで、自動車と競争するのでなく、

 自動車を使いこなすべく社会を変えた人々のように。』

大学をめぐる二つの市場

先月29日付けの週刊東洋経済「経済を見る眼」に掲載された

苅谷剛彦・英オックスフォード大学教授の執筆による

『大学の定員規制緩和は有効か』という記事が、とても勉強になりました。

 

国家戦略特区制度が目指す大学の定員規制撤廃問題を、

大学の学生(獲得)市場と卒業生の就職市場との関係から考えるもので、

その要旨は次のような内容でした。

 

・最終学歴を提供する大学は、学生市場と就職市場の二つの市場で競合していて、

 この両者は相互に関係する。卒業生の就職実績が大学の評価につながり、

 それが学生市場での有利、不利に結び付く。

    他方、学生市場で優秀な学生を集められなければ、卒業生の就職市場にも響く。

・大学が生き残れるかどうかは、二つの市場次第で、

 日本で多数を占める人文社会系中心の(私立)大学の場合はその傾向は一層強まる。

・一方、医師や法曹、教職といった専門職の場合には、国家試験の枠がはめられ、

 さらに、教職では、公務員としての就職が多数を占めるなど、

 就職市場の様相が異なる。これらの条件では、市場の自由度が狭まり、

 賃金や雇用条件をめぐる競争が働きにくい。

 獣医師の場合も、大型動物を扱う獣医師不足が言われるが、

 その多くは公務員職のため、市場の調整メカニズムが働きにくい。

・専門性がそれほど問われない文系の就職市場では、大学設置の規制を緩めても、

 自由な競争を許す二つの市場との結び付きから、

 就職市場での不振が学生市場に影響し、

 入学者不足となる「大学の淘汰(市場からの退出)」が起こりうる。

・こう見ると、就職市場の作動の仕方によって、

 入学者への定員規制の意味が異なっていることがわかり、

 規制撤廃の影響にも違いが出る。

 公務員中心の大型動物を扱う獣医師養成の場合も、

 規制緩和が有効な競争や人材供給につながるとは限らない。

・6年生の獣医学部のように、専門性が高く、養成にも時間も(公的)費用もかかり、

 就職市場が限定される職業ほど、市場の失敗がもたらす損失は大きくなる。

 市場メカニズムの有効性をたのむ規制緩和策は、

 それだけに市場の性格の違いを考慮に入れなければならない。

 

う~む、なるほど……。このような視点で考えたことなかったです……。

でも、記事を読んでいて、私には若干の違和感がありました。

そもそも、加計学園獣医学部新設をめぐる規制緩和は、

市場メカニズムの有効性をたのむ」ものだったのでしょうか…?

私の頭ではうまく説明できませんが、

場の論理を貫く世界とはちょっと違うような気がします。

あと一歩のところで

今日31日の朝日新聞デジタル版に、

リクルート進学総研の「進学ブランド力調査」で、

高校生が「志願したい大学」の1位は、関東では早大だったことが書かれていました。

昨年まで8年連続1位だった明大に代わって、

早大は9年ぶりにトップになったとのことでした。

ちなみに、2位は明大、3位は青山学院大、4位は慶大、日大、立教大

という結果が紹介されていました。

 

この調査で母校が1位に選ばれたのは、OBとしてとても喜ばしく思います。

全国から有為な人材が集まって、 早稲田の自由闊達なキャンパスで

互いに切磋琢磨されることを期待しています。

 

ところで、清宮選手を擁する早実は、

昨日の西東京大会の決勝で東海大菅生に敗れ、

最後の最後で甲子園の切符を手にすることができませんでした。

甲子園球場で清宮選手が打つホームランを楽しみにしていただけに、

とても残念に思います。

 

でも、「あと一歩のところで夢や希望が潰える」というのは、

高校野球に限ったことではなく、それがまた人生というものですよね……。

清宮選手には、是非、系列の早大に進学して、

今度は東京六大学のスターとして活躍していただきたいと願っています。

 

もし、清宮選手が早大に進学すれば、さきほどのリクルート進学総研の調査も、

清宮選手が在籍する4年間は、早大は1位をキープできるかもしれません……。

一瞬の不安を感じる

昨日、そして今日と、強烈な暑さが続いています。

この厳しい暑さで、体力が消耗していくのが、はっきりと自覚できます。

まだ7月……。

この過酷な夏を無事に乗り切れることができるのか、ちょっと心配になってきました。

 

さて、『閉鎖病棟』(帚木蓬生著:新潮文庫)を読了しました。

小説とはいいながら、私にはとても重たい本でした。

ですから、コメントも正直しづらいところがあります。

ただ、この私の気持ちを代弁してくれているような記述を、

作家・逢坂剛さんによる解説のなかの、次のような文章に見つけることができました。

 

『帚木の「閉鎖病棟」は、同じように精神を病むさまざまな人々を描きながら、

 そうした刺激的な小説とまったく対照的な世界を構築、提示する。

 精神科病棟の実態を、患者の立場からこれほど公正に描き切った小説は、

 おそらく初めてだと思う。

 ここで公正というのは、むろん差別的な視点がないことだけでなく、

 わざとらしい無益な同情、憐憫もないことを意味する。

 患者を同じ目の高さから、長所も欠点も含めて

 まさにわたしたちの仲間として描く、毅然とした姿勢をいうのである。

 そこに初めて、理解と共感が生まれる。

 この作品を読んだ読者は、精神科の患者たちがしばしばわたしたち以上に、

 純粋でまともな心の持ち主であることを知り、愕然とするに違いない。

 むしろ、異常なのは自分たちの方であって、

 もしかすると彼らの方が実は正常なのではないか、という気さえするだろう。

 逆にそのような不安を、たとえ一瞬でも感じない人がいるとするならば、

 むしろわたしは不安を覚える。』

 

どうやら私も、「一瞬の不安を感じた」読者の一人のようです……。

さぁ、ようやく陽も傾いてきました。

これから、やぶ蚊に刺されながら、庭木の水やりをすることにします。

 

閉鎖病棟 (新潮文庫)

閉鎖病棟 (新潮文庫)

 

 

 

 

 

適切な距離と記憶の抽斗

『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』(弘兼憲史著:海竜社)と

『孤独のすすめ~人生後半の生き方』(五木寛之著:中公新書クラレ)を

ほぼ同時に読了しました。

 

どちらも読みやすくて、読み終えるまでそれほど時間はかかりませんでした。

それぞれの本で、これからの身の処し方、生きていくうえでの心構えなどについて、

参考になった、あるいは印象に残った記述を、次のとおり書き残しておきます。

 

まずは、弘兼さんの本から……。

・奥さんから自立し、嫌われないために、あなたが心がけることは2つあります。

 それは、「奥さんとなるべく一緒にいないこと」、「お互いの距離を保つこと」。

 距離が近づき過ぎると事故が起きる確率が高まるのは、

 人間もクルマも同じなのです。

・夫婦関係を円滑にするために、

 「お互いの距離を適切に保つ」ことが大事だとすれば、

 奥さんと旅行へなどという幻想も早く捨てたほうがいいでしょう。

 奥さんから「旅行に行きたい」とでも言われたのであればかまいませんが、

 「たまには奥さん孝行で旅行にでも連れていってやるか」

 などという上から目線だったら絶対にやめたほうが身のためです。

 

次に五木さんの本から……。

・最近は、未来を考えるより、むしろ昔を振り返ることが大事だと思っています。

 記憶の抽斗を開けて回想をし、繰り返し記憶を確かめるたびに、

 ディテールが鮮やかになってくる。それが、日々の楽しみになるのです。

 過去を振り返るのは後ろ向きだ、退嬰的だと批判する人もいます。

 「高齢になっても前向きに生きよ、それが元気の秘訣だ」という意見も、

 少なくありません。それよりは、あの時はよかった、幸せだった、楽しかった、

 面白かったと、さまざまなことを回想し、なぞっていったほうがいい。

・人間不信と自己嫌悪は、人が明るく生きていく上で大きな障害になります。

 それを、どういうふうに手放すか。

 私はこれも、回想の力によって乗り越えられる考えています。

 

まず、弘兼さんの「奥さんとなるべく一緒にいないこと」は、

私は妻から「うっとうしい存在」と思われていますので、既に実践済みです。(苦笑)

次に、五木さんの「昔を振り返る」は、

私が昭和歌謡曲やフォークソングYouTubeで聴いていると、

いつも妻と娘から「うざい」と言われます。

 

でも、お二人の本を読んで、

なんだか私の生きざまを認めてもらったような気がして、嬉しい気持ちになりました。

♬ こうして目を閉ざせば いつでもあなたに逢える

  そうしてあなたのやさしさ 数えながら生きていける……… 

このさだまさしさんの曲にあるように、私にとって「思い出はゆりかご」なんです。

 

弘兼流 60歳からの手ぶら人生

弘兼流 60歳からの手ぶら人生