しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

「知」は引用から

「悪の引用句辞典」(鹿島 茂著:中公新書)を読了しました。

この本を購入したのは、著者が鹿島茂さんだったからです。
鹿島さんは、フランス文学者で明治大学国際日本学部教授。
昨年6月にNHK・Eテレ「100分de名著」で、
パスカルの「パンセ」が放送されましたが、その時のゲスト講師でした。
切れ味鋭い解説がとても印象に残っています。

また、この本のタイトル「悪の引用句辞典」は、編集部の発案だそうですが、
このアイデアを採用したのは、
「善は変数だが、悪は常数である」という鹿島教授の信念に
かなっていたからだそうです。

さて、この本のなかで私のお気に入りは、次の四つの引用句に係る鹿島教授の解説です。
 ① ヴィクトル・ユゴーレ・ミゼラブル
  → 問題は、「富を生み出すこと」と「富を分配すること」の二つしかない。
    だが、この二つは永遠に二律背反の関係にあり、どんな天才をもってしても
    公正な配分を図ることは困難なのである。
 ② ジアコモ・カサノヴァ「カザノヴァ回想録」
  → 現在、問題視されている幼態成熟、つまり子供のままの精神状態で、
    成熟という段階を経ずに老年に突入していくことの矛盾が
    十八世紀にはすでに自覚されていた。
 ③ エミール・デュルケム「道徳教育論」
  → 「お客様は神様です」という発想こそが教育崩壊の原因なのである。
 ④ オノレ・ド・バルザックゴリオ爺さん
  → イジメは人間の本性に根差したモノであるから、
    堪えている人がいる限りなくならない。これが赤裸々な真実なのである。

鹿島教授は、『「知」は引用から始まる』と述べられています。
本書は、知的好奇心を限りなく刺激する「良書」だと思いますので、
是非一読されることをお薦めします。