しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

戦前日本の「失敗の本質」

『持たざる国への道〜あの戦争と大日本帝国の破綻』
(松元崇著:中公文庫)を読了しました。

この本の中で書かれてある、
『戦争に負けて、なぜ良かったといえば、』で始まる文章は、
最初読んだときは、「ドキリ」としました。ちょっと不謹慎かなと…。
でも、著者の真意を理解して、なるほどと納得しました。
その文章とは、次のようなものです。

『戦争に負けて、なぜ良かったといえば、
 敗戦が軍部の暴走による経済的な負け戦の状況に
 終止符を打ったという面が大きかった。』

『戦争に負けて。なぜ良かったといえば、
 先の戦争では基本的に賠償が求められず、
 財政的に見れば我が国にとって負け戦ではなかったことが大きかった。』

それから、『戦争が残したもの』という、次の文章も印象に残っています。

『戦争が残したもので、
 その後の我が国の経済発展につながったものとしては、
 近代的な税制、教育を財政的に安定させる制度、
 農村の格差を解消した実質的な農地制度の改革などがあった。』

さて、この本のタイトルにある
『あの戦争』と『持たざる国』という二つのキーワードの「意味」ついては、
加藤陽子・東大大学院教授の解説が、とても分かりやすくて参考になりました。
加藤教授の解説を、少々長くなりますが、次のとおり書き残しておきます。

『37年7月に始まった日中戦争の泥沼化とともに国民生活が逼迫し始めると、
 その責任を国民に説明するに当たって国家は、
 「英米のブロック経済が『持たざる国』である我が国を追い込んだため」と
 宣伝する。しかし、と筆者は問いかける。
 30年代半ばの日本が英米の嫉視を買うほど好況であったとすれば、
 「繁栄していた我が国が突然『持たざる国』になって窮乏化していった」
 のはおかしくはないか、と。
 むしろ、原因と結果が逆だったのだ。
 経済合理性を無視して満州経営をおこなった陸軍、
 その軍部は続いて、政界や財界をも巻き込み、通貨戦争という側面で、
 考えられないような愚作を華北分離工作でおこなった。
 国民生活を窮乏化させた真因は、「軍部による経済的な負け戦」であったのに、
 「英米の敵対政策のせいだと思い込んだ国民は、英米への反感を強め、
 実はそれをもたらしている張本人である軍部を
 より一層支持するようになっていった」とのパラドクスとアイロニーが描かれる。』

う〜ん、恐れ入りました。「目からウロコ」です。
歴史教科書では決して学ぶことのできない視点を、この本で学ぶことができました。

そうそう、もう一つ思い出しました。
筆者の基本的な「思想」は、本の「はじめに」で簡潔明瞭に書かれています。

『そのような歴史を繰り返さないためには、
 経済合理性を大切にすること、
 それを可能にする常識的な議論が行われる土譲を創り上げ、
 守っていくことが必要だ。』

経済合理性という新たな視点で戦前日本の「失敗の本質」を描いた、
とても貴重な本だと思います。