しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

総悲観論からの脱却

『景気回復は持続しない。
 景気とは景気循環であり、春夏があれば秋冬が来るように、
 景気は回復、好況後は、後退、不況となる。
 不況となるから回復するのであり、永遠の回復も好況もない。』

この書き出しには、びっくりしました。
先月27日の日経新聞「経済教室」に掲載された、小幡績・慶応大学准教授の、
『景気回復は持続可能か㊦〜短期的な好循環続かず』という論考のことです。

小幡教授は、景気循環と経済成長は別であるとして、
過去の短期的な景気対策は、
次の3つのルートで長期の経済成長を妨げてきたと指摘されています。

①経済主体が受け身で対応し、構造変化が起きない。
 短期的な調整のひずみで景気が部分的に過熱し、好況期が早熟化してしまう。
②人々の期待の変化を狙う刺激策は短期的にしか持続せず、
 政策意図が織り込まれてしまえば、
 長期には期待を動かした政策的撹乱(かくらん)の副作用だけが残る。
③ミクロ的な資源配分の撹乱。投資促進政策をとれば需要は増えるが、
 中長期的には、日本の過剰資本蓄積問題を悪化させる。

次に、小幡教授は、経済においては次の3つの好循環があると説明されています。

①短期の好循環。景気循環における回復・好況期が力強い。
②中期の好循環。需要が需要を呼び、投資が投資を呼ぶような展開。
 この需要の継続的な増加が、供給構造とうまくかみ合うと、長期の経済成長が実現する。
 日本の高度成長期も中国の近年の成長もこの構造。
③日本の「高度」成長に見られた、さらなる「高度な」好循環メカニズムの存在。
 それが第三の好循環で、第二の中期の好循環を「量的好循環」と呼ぶなら、
 こちらは長期の「質的好循環」。

そして、小幡教授は、
現在の日本経済は、次の3つの要素により好循環となっているけれど、
短期の循環である以上、持続は難しいと述べられています。

①世界経済が2012年夏に底打ちして、日本は景気循環の回復期から好況期にある。
安倍政権の登場と金融政策の大幅変更により、萎縮均衡、総悲観論から脱却した。
 株価上昇と日本経済の雰囲気一変の理由である。
 株式資産効果は消費に波及し、12年夏からの回復を強化したのであり、
 アベノミクスの最大の効果である。
公共事業など大幅な財政支出増加で短期的循環の好況期を延命している。

最後に、論考は次の文章で結ばれています。
『一方で、総悲観論からの脱却は、
 海外や新産業などの新しい領域での前向きな投資を誘発し好循環となる可能性はある。
 このような真の好循環経済が実現する起点としての「場」は、
 かつての「高度」成長期には各企業内部であったが、
 今後の日本経済においては、労働の流動化、社会の多様化、経済の国際化によって、
 もっと幅広く、日本社会全体が好循環の起点の「場」となっていく必要がある。』

順序が逆になりましたが、
日本経済の好循環が持続しない理由としては、次のように述べられています。

『悲観からの脱却ボーナスは昨年一度限りであり、いずれ景気循環は下降局面に入る。
 政府債務は世界最高水準で、財政支出は維持不可能であり、
 円安による輸入価格上昇で貿易赤字の急増から経常収支の赤字転落が見込まれる。
 通貨下落、国債価格下落(長期金利上昇)により、
 日本経済は中期的に困難に直面する可能性が高い。』

以上、一読して大変勉強になる論考だと思い、長々と書き残してきました。
実は、この論考を読んで、私が一番印象に残っているのは、次の一節でした。

『大企業が保有する現金を熟年社員に配ることは、短期的な消費増だけで無意味だ。
 人的資本の蓄積期間が今後長期に見込まれる若年層に
 人的資本蓄積の機会となる仕事を与え、
 その付加価値に応じた高い賃金を将来企業が払う好循環が起こることが必要だ。』

日本の社会経済に好循環をもたらす「担い手」は、若者がもっともふさわしいと思います。
その「担い手」が活躍する「場」と「希望」が、今の日本には必要なのかもしれません。
そして、私の世代と私より上の世代に必要なのは、「品格」なのでしょうね……。