しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

待つこと、そして希望すること

『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著:文春新書)を読了しました。

一ページ、一ページを、ゆっくりと噛みしめるようにして読みました。
それほど読み応えのある本でした。
「生涯読んだ本の中で、100冊の本を選べ」と言われたら、
これからどんな本に巡り合うか分かりませんが、間違いなくその候補に挙がる本だと思います。

この本を読んで衝撃を受けたのは、
経済白書で「もはや戦後ではない」といわれた昭和31年まで、
厳寒の地・シベリアで、過酷な抑留生活を送っていた人たちがいたという事実です。

終戦から10年という月日が経過し、
高度成長の道を歩み始めた日本ですが、その時点では、
「戦後は決して終わっていなかった」という歴史的事実を改めて知ることになりました。

しかもさらに驚くのは、
過酷で絶望的な環境の中でも、最後まで日本へ帰国するという希望を捨てず、
生命のともし火を燃やし続けた山本幡男さんと
その山本さんと固い友情で結ばれた仲間たちがいたという事実です。
山本さんの遺書を何とかして遺族のもとへ届けようと考え、行動する仲間たちの姿は、
とても感動的で涙なくして読むことはできません。

そして、私が強く胸を打たれたのが、
山本さんの子供さんたちへの遺書の中にある次の言葉です

『さて、君たちは、之から人生の荒波と闘って生きてゆくのだが、
 君たちはどんな辛い日があろうとも
 光輝ある日本民族の一人として生まれたことを感謝することを忘れてはならぬ。
 日本民族こそは将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、
 東洋のすぐれたる道義の文化〜
 人道主義を以て世界文化再建に寄与しうる唯一の民族である。
 この歴史的使命を片時も忘れてはならぬ。』

本文中に、瀬崎清さんが述べられていますが、
これは山本さん個人の遺書ではなく、
収容所で空しく亡くなられた人々全員が祖国の日本人すべてに宛てた
遺書なのだと思いました。

「過酷な状況に置かれてもなお人間らしく生きるとはどういうことか?」
フランクルの「夜と霧」における「創造価値、体験価値、態度価値」や、
デュマの「モンテ・クリスト伯」における「待つこと、そして希望すること」、
この二つの言葉に相通じるものがあると思いました。

この本は、間違いなくノンフィクションの傑作だと思います。

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫)

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫)