しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

人間を生かすもの

『生きて帰ってきた男~ある日本兵の戦争と戦後』

(小熊英二著:岩波新書)を読了しました。

 

本書は、シベリア抑留者である著者のお父さんの人生が

オーラルヒストリー的に描かれた作品ですが、

著者が「あとがき」でも述べられているように、

例えば私が読んだ『収容所から来た遺書』(辺見じゅん)のような

これまでの「戦争体験記」とは一線を画した視点で書かれています。

 

その一つは、戦争体験だけでなく、戦前および戦後の生活史が描かれていること。

二つめは、法制史や経済史などの社会科学的な視点が導入されていること。

 

ですから、「どんな境遇から戦争に行ったのか」

「帰ってからどう生きていったのか」

「戦争が人間の生活をどう変えたのか」

「戦後の平和意識がどのように形成されたのか」など、

著書が意図した視点が見事に織り込まれていて、秀逸な作品に仕上がっています。

 

また、本書のなかでは、

最後の箇所の次の記述が強く印象に残りました。

 

『さまざまな質問の最後に、人生の苦しい局面で、

 もっとも大事なことは何だったかを聞いた。

 

 シベリアや結核療養所などで、未来がまったく見えないとき、

 人間にとって何がいちばん大切だと思ったか、という問いである。

 

 「希望だ。それがあれば、人間は生きていける」そう謙二は答えた。』

 

過酷な体験をしながら必死に生きようとした方の言葉だけに、

ものすごく説得力がありました。

「人間を生かすものは希望である」ことは、

先ほどの『収容所から来た遺書』と共通するものがあります。