『生きて帰ってきた男~ある日本兵の戦争と戦後』
本書は、シベリア抑留者である著者のお父さんの人生が
オーラルヒストリー的に描かれた作品ですが、
著者が「あとがき」でも述べられているように、
例えば私が読んだ『収容所から来た遺書』(辺見じゅん)のような
これまでの「戦争体験記」とは一線を画した視点で書かれています。
その一つは、戦争体験だけでなく、戦前および戦後の生活史が描かれていること。
二つめは、法制史や経済史などの社会科学的な視点が導入されていること。
ですから、「どんな境遇から戦争に行ったのか」
「帰ってからどう生きていったのか」
「戦争が人間の生活をどう変えたのか」
「戦後の平和意識がどのように形成されたのか」など、
著書が意図した視点が見事に織り込まれていて、秀逸な作品に仕上がっています。
また、本書のなかでは、
最後の箇所の次の記述が強く印象に残りました。
『さまざまな質問の最後に、人生の苦しい局面で、
もっとも大事なことは何だったかを聞いた。
シベリアや結核療養所などで、未来がまったく見えないとき、
人間にとって何がいちばん大切だと思ったか、という問いである。
「希望だ。それがあれば、人間は生きていける」そう謙二は答えた。』
過酷な体験をしながら必死に生きようとした方の言葉だけに、
ものすごく説得力がありました。
「人間を生かすものは希望である」ことは、
先ほどの『収容所から来た遺書』と共通するものがあります。