しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

保守思想のバイブル

戦後70年という節目の年に文庫版として刊行された

『日本の愛国心~序説的考察』を再読しました。

 

藤本龍児・帝京大学准教授が、

佐伯先生の「保守思想」を次のとおりに解説されていました。

とても秀逸な内容だったので、まず最初に紹介したいと思います。

 

藤本准教授は、佐伯先生のいう「保守」とは、

基本的には、ある種の精神的な態度のことであり、

思想もそこから出てくるとして、次の三つの問題意識と批判精神を列挙されています。

 

・一つに保守は、理性を過信しない。

 フランス革命共産主義のように、既存の社会秩序を破壊し、

 理性的に新しい社会構造を設計できるとは考えない。

 新しい理念を抱いて不確かな未来に期待することを慎み、

 時代の要請と称して急激に改革を進めることを改める。

 

・二つに保守は、歴史に根ざす。

 人間の理性を過信しない代わりに、多くの人々に吟味されてきた知恵や、

 長い時間に耐えてきた秩序を重んじる。

 社会を安定させるために、歴史のなかで培われた伝統や権威を尊重する。

 理想のなかに予測される可能性よりも、

 現実のなかに受け継がれた実効性を重んじる。

 

・三つに保守は、身近なものから出発する。

 家族や友人、地域社会、といった具体的な関わりや共感がもてるものを

 「生の基盤」にし、そこで育まれてきた文化を拠り所とする。

 それらを基盤としない個人の自由から出発し、

 制度やシステムを構築することには懐疑的になる。

 

う~む、何度読んでも素晴らしい…。

「保守思想」というものの原点を簡潔明瞭に説明されています。

さて、肝心の本書の内容ですが、

単行本に続いての再読にも関わらず、読んだ後は付箋だらけになっていました。

 

そのなかでも特に心に刻まれたのは、

保田與重郎小林秀雄が感じ取った「日本の精神」は、

ある決定的な場面で共通の感受性を表したとして、

次のように説明されている文章です。

 

『それは、日本の「伝統」や「歴史」の中に、

 「かなしみ」「無私」「滅び行くものへの愛着」と表現されるような

 感覚の痕跡をかぎつけていることである。

 勝者の凱旋などではなく、敗者の無念さに琴線を掻き立てられ、

 晴れ晴れした戦いの正義などではなく、

 どこか鬱積した情念のもつささやかな義へ関心を向け、

 戦いに正邪や理由を読み取るというよりも、そこに運命の巨大な力を感じ、

 そして、最終的には、その運命に翻弄されて敗残していく自己を、

 そのままに無私の心で受け入れる、というような精神である。

 

 ここから、特定の対象や原因をもたない透明な

「かなしみ」のような情緒が深く出来(しゅったい)する。

 この「かなしみ」や「滅び」や「無私」が奏でる和音の上に

 「日本の愛国心」はさまざまな旋律を奏でる。

 いずれにせよ、この和音が常にわれわれの精神の底流を流れている。

 この静かな和音の上に「日本の愛国心」というものが奏されるのだ。』

 

佐伯先生は、『侵略戦争断罪の左翼が批判する愛国心でもなければ、

大東亜戦争肯定論が想定する愛国心でもない、

その底にある「もうひとつの愛国心」』とも述べられています。

「保守思想」のバイブルとして、是非手元にお置いてほしい一冊です。

 

日本の愛国心 - 序説的考察 (中公文庫)

日本の愛国心 - 序説的考察 (中公文庫)