しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

贅沢な一冊

開高健の名言』(谷沢永一著:KKロングセラーズ)を読了しました。

この本の第十一章・「開高評論」で、開高健は、
中島敦の作品は、「当時の作者の年齢を考え合わせれば、
端正、荘重、ほとんど稟質そのものといいたいみごとさ」と評価する一方、
高橋和巳の作品を読むのは、「生理的に耐えられないような性質の苦痛だった」と
書いています。

谷沢さんの解説では、
高橋和巳の作品は党派色を帯びた煽動的な辞彙で、
開高健にとっては異域の人だったらしく、
また、中島敦の作品に関連して、
開高健は、燈明であたたかく鋭いユーモアを何よりも尊重していた、
と述べられていました。

高橋和巳」と「中島敦」、
どちらも私の好きな作家だけに興味をもって読みました。

名言が盛りだくさんの本でしたが、
やはり私は、次の「短文」についての名言が一番のお気に入りです。

『短文を書くのはむつかしい。
 長文を書くのもむつかしいが、短文では別種の苦労で背中が痛む。
 言葉を煮つめ、蒸溜し、ムダをことごとく切って捨てながら
 しかも事の本質をつかまえて伝えなければならない。
 これが容易ではないのである。
 明晰でなければならないのにサンシング・アンセイド(語られざる何か)を
 背後に含ませねばならない。
 百語を一語に縮めながらものびのびしていなければならない。
 しばしば最小を述べつつ最大を感じさせなければならない。
 語らなければならず、説いてはならず。
 過去を現在と感じさせ、茶飲み話なのに
 どこかに啓示の気配もそえなければならない。』

開高健の珠玉の名言の数々と
谷沢さんの鋭い解説が同時に味わえるという、
ちょっと贅沢な本だと思います。

開高健の名言

開高健の名言