しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

判断力と実行力

『新編・後藤田正晴〜異色官僚政治家の軌跡』(保阪正康著:中公文庫)を読了しました。

読んでいて、最近の「安全保障関連法案」や「戦後70年首相談話」の議論を
彷彿とさせるものがありました。例えば、次のような記述です。

『〈アメリカは世界の紛争地に自国の青年を送り出している。
 そういう青年の血を流しておいて、
 その費用は外国からとるという政治はおかしいのではないか〉

 〈日本は経済的支払いをする以上は、アメリカに対して
 すべてを戦争という手段に訴えるべきではないというべきではないか。〉

 〈日本もまたアメリカにならって、血を流せなどという学者がいるけれど、
 お前、そんなこと言って日本の青年に血を流せっていうのか。
 お前自身その覚悟があるのか〉

 〈日本が日本なりの国際貢献をしてどこが悪いのか。
 どんなことがあっても日本はアメリカと同じ軍事路線を歩めというのは
 おかしいではないか〉。

 私は、後藤田との取材で、このようなニュアンスの言をなんどか耳にした。
 アメリカが自らの国家利益を世界的な規範として他国に強制することに、
 後藤田は納得していないのである。

 後藤田の言に含まれているのは、歴史的な体験に基づいた重さなのである。
 後藤田のそうした認識が未だ一般には十分に理解されていない、と私は思う。』

『いまも日本人の「心の戦後は終わっていない」というのが、後藤田の実感であった。
 偏狭なナショナリズムと自虐にも似た公式的な加害者史観
 このふたつの間にある歴史的中庸を
 保つ姿勢が求められているというようにも解釈できる。

 後藤田が嘆く、「親父の世代だから関係ない」
 との戦後派世代の発想にひそんでいるのは、歴史的教訓を学ぼうとしない傲慢さであり、
 怠慢でもあるということであった。』

著者によると、「大正3年生まれの後藤田さんは、
太平洋戦争に狩り出された世代であり、その体験をとおして、
「戦争はもう二度とごめんだ」というのが基本にある認識だ」とのことでした。

平成5年の夏の政変で、総理・総裁候補にもなった後藤田さんが、
もし今の首相なら、どんな「戦後70年談話」を述べられるのでしょうか?
また、もし官房長官なら、どんなアドバイスを首相に与えるのでしょうか?
そのようなことを考えながら本書を読んだ次第です。

『判断が正しくても実行されなければ意味がない。
 判断力と実行力は両輪である。
 この両輪を回転させなければ、
 人は「運」さえ自分の側に引き寄せることができない。』

少々長くなりました。
本書の中でいろいろと印象に残った言葉のなかでも、
特にこの言葉をこの日記に残しておきます。

新編 後藤田正晴―異色官僚政治家の軌跡 (中公文庫)

新編 後藤田正晴―異色官僚政治家の軌跡 (中公文庫)