しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

固定観念に束縛された経済成長

歴史学者小熊英二さんの執筆による朝日新聞「論壇時評」……。

毎回、その論評を楽しみに読んでいますが、

一昨日30日は、『思考実験 労働を買いたたかない国へ』というタイトルでした。

 

この論評で小熊さんは、「経済の停滞」、「長時間労働の蔓延」、

「激しい格差」、「著しい少子化」など、日本社会に山積する問題を、

まとめて解決する政策の思考実験を提案されていました。

 

その政策とは、時間給の最低賃金を、

正社員の給与水準以上(例えば時給2500円)にするというもので、

派遣や委託その他の、いわゆる「非正規」の働き方への対価も

同じように引き上げるというものです。

ただしこれは、「貧困層の救済」が目的ではなく、

日本社会を縛っている固定観念を変えることが目的とのことでした。

 

この思考実験の結果、日本社会がどのように変化するのか、

その詳細を引用させていただくと長くなるので、

私なりに簡単にまとめてみると、およそ次のようになります。

 ・正規と非正規の格差は減少する。

 ・「正社員の座」にしがみつく必要がなくなる。

 ・賃金が上がれば結婚しやすくなり、少子化の緩和が期待される。

 ・過度の長時間労働が減る。

 ・教育は学歴ではなく実質的なものとなる。

 

なるほど、こういう思考実験もあるのかと、感心して読みましたが、

私が印象に残ったのは、この思考実験の結果というよりも、

小熊さんの次のような記述でした。

 

『以上は思考実験である。

 実施した場合は、過度のインフレや円安を招く懸念もある。

 当然の話だが、競争や分断がまったくない社会は存在しないだろう。

 だがこの思考実験からは、最低賃金を大幅に引き上げるだけでも、

 日本社会が大きく変わることがわかる。

 そしてそのことは、日本社会が労働を湯水のように安価に使い、

 人間の尊厳を軽んじていることが、

 停滞と閉塞(へいそく)感の根底にあることを示している。 

 「より良い生活」への欲求のないところに成長はない。

 かつては電化製品が欲しいという欲求でも経済は成長した。

 だが現代の先進国では、欲求はより高次元になっている。

 それは「正当に評価されたい」「人権を尊重してほしい」

 「自由な人生設計をしたい」といった欲求だ。

 それを「我慢しろ」「仕方ない」と押さえつけて、成長するだろうか。

 あえて言おう。

 フルタイムで働いても尊厳ある生活ができないレベルの対価で

 人間の労働が買われている状態は、人権侵害である。

 人間が尊重されない社会では、経済も成長しない。

 日本はこの25年、「黙々と我慢して働けば成長する」という

 過去の観念に縛られてきた。

 だがもはや、そうした固定観念の束縛から逃れるべきだ。』

 

う~む、まいりました……。

特に、「人間が尊重されない社会では、経済も成長しない」

というご指摘には「ドキリ」としました。

欲求が高次元となった現代社会では、確かにそのとおりなのかもしれません。

いつものことではありますが、今回も、いろいろと考えさせられた論評でした。