先月29日付けの週刊東洋経済「経済を見る眼」に掲載された
苅谷剛彦・英オックスフォード大学教授の執筆による
『大学の定員規制緩和は有効か』という記事が、とても勉強になりました。
国家戦略特区制度が目指す大学の定員規制撤廃問題を、
大学の学生(獲得)市場と卒業生の就職市場との関係から考えるもので、
その要旨は次のような内容でした。
・最終学歴を提供する大学は、学生市場と就職市場の二つの市場で競合していて、
この両者は相互に関係する。卒業生の就職実績が大学の評価につながり、
それが学生市場での有利、不利に結び付く。
他方、学生市場で優秀な学生を集められなければ、卒業生の就職市場にも響く。
・大学が生き残れるかどうかは、二つの市場次第で、
日本で多数を占める人文社会系中心の(私立)大学の場合はその傾向は一層強まる。
・一方、医師や法曹、教職といった専門職の場合には、国家試験の枠がはめられ、
さらに、教職では、公務員としての就職が多数を占めるなど、
就職市場の様相が異なる。これらの条件では、市場の自由度が狭まり、
賃金や雇用条件をめぐる競争が働きにくい。
獣医師の場合も、大型動物を扱う獣医師不足が言われるが、
その多くは公務員職のため、市場の調整メカニズムが働きにくい。
・専門性がそれほど問われない文系の就職市場では、大学設置の規制を緩めても、
自由な競争を許す二つの市場との結び付きから、
就職市場での不振が学生市場に影響し、
入学者不足となる「大学の淘汰(市場からの退出)」が起こりうる。
・こう見ると、就職市場の作動の仕方によって、
入学者への定員規制の意味が異なっていることがわかり、
規制撤廃の影響にも違いが出る。
公務員中心の大型動物を扱う獣医師養成の場合も、
規制緩和が有効な競争や人材供給につながるとは限らない。
・6年生の獣医学部のように、専門性が高く、養成にも時間も(公的)費用もかかり、
就職市場が限定される職業ほど、市場の失敗がもたらす損失は大きくなる。
それだけに市場の性格の違いを考慮に入れなければならない。
う~む、なるほど……。このような視点で考えたことなかったです……。
でも、記事を読んでいて、私には若干の違和感がありました。
「市場メカニズムの有効性をたのむ」ものだったのでしょうか…?
私の頭ではうまく説明できませんが、
市場の論理を貫く世界とはちょっと違うような気がします。