しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

現代正義論を学ぶ

『正義とはなにか~現代政治哲学の6つの視点』(神島裕子著:中公新書)を読了しました。

本書にどんなことが書かれていたのかを後で思い出すために、私が特に大切だと思った文章を3つ、

次のとおり抜き出してみました。


・不安な社会で虚無主義に陥った〈私〉が生き延びるためには、

 「勝ち組」になって市井の人びとの日常と無縁の生活を送るか、

 リスクを最小限に抑えた「為さない・持たない」生活を送るかではないでしょうか。

 あるいは人生がうまくいかない理由を他者の存在に見出すことで、

 辛うじて自己肯定感を保つことになるのかもしれません。

 すると社会は分断され、憎悪と不寛容がはびこり、民主主義はますます危うくなります。

 こうした事態に取り組むための一手段として、正義の理論があります。

 〈君と私で合意できる正義は何かを考えよう〉という、民主的な哲学の営みです。(「まえがき」)


・これまで本書では、リベラリズムリバタリアニズムコミュニタリアニズムフェミニズム

 コスモポリタニズム、そしてナショナリズムという現代正義論の六つの立場が

 競合している様子を描いてきました。皆さんはどれに最も親しみを覚えたでしょうか。

 ロールズの「正義論」からスタートした現代正義論は、

 個人の不可侵なものとは何であるかを模索すると同時に、社会的協同の産物である自由、権利、財/資源、

 そして義務の分配もテーマとしてきました。

 六つの立場は、何を誰にどう分配するのが正しいのかに関して、切磋琢磨しているのです。(「終章」)


・人間がこの世界で自分と他者のために希望を持ち続けるためには、多くの哲人市民の支えが必要です。

 現代社会において、正義は哲学と民主主義の協同の産物ですが、

 その公共的使用の方法を学校で教えてくれないとしたら、自分たちで学ぶしかありません。

 現代正義論はそのためのツールであると言えます。(「終章」)


著者は「まえがき」で、『たとえ傲慢だと言われようとしても、

正しい社会のあり方は論じられなければならず、また論じ続けなければなりません。』と述べられていました。

社会に生きる哲学者・「哲人市民」になることは容易ではなさそうですが、

現代社会の一員として生きていくなかで、不条理や不正義に遭遇したときに、

「正義とは何か」を考える姿勢を持ち続けることの大切さを、本書から学べたような気がします。