しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

死者からのまなざしを受ける

NHKテレビテキスト、100分de名著の『大衆の反逆~オルテガ』を読了しました。

テキストの執筆者は、評論家で東京工業大学教授の中島岳志さんです。


このテキストで一番印象に残ったのは、「生きている死者」という言葉でした。

オルテガは、リベラリズムに基づいたデモクラシーを徹底して擁護した人物、

その実現のために重要視したのが「生きている死者」の存在とのことで、

中島さんの次のような解説がありました。


 ・人間は二度死ぬということ。つまり、単に心肺停止によって死ぬだけではなく、

  忘却によって真の死を迎える。

 ・ヨーロッパ社会の秩序を支えてきたのは「生きている死者」とともに歩むという感覚だった。

  死者は身体が失われたあとも私たちのそばにいて、この世の中を支えてくれていると考えられていた。

 ・そうした感覚が共有されていれば、社会で多数派を占めているかといって、

  その人たちが勝手に何でも決めたり、変えたりしていいということにはならない。

 ・過去の英知や失敗の蓄積の上に現在があるのだから、いま生きている人間だけによって、

  既存のとり決めを何でもかんでも変えていいわけがない。

 ・いくら多数決が民主制の基本とはいえ、そうした「限界」はもっていなくてはならない。


う~む、なるほど‥‥。中島さんが、日本の多くの家にある「遺影の存在」でも指摘されているように、

「日々、死者からのまなざしを受けること」は、重要な意味があるのですね‥‥。

でも、まさか政治学の世界で、このような考え方がでてくるとは思いませんでした。


このほか、テキストでは、

「多くの無名の人たちが積み上げた経験値に学びながら、漸進的な改革をしていこう~「永遠の微調整」~」

というのが「保守の発想」だという、忘れ難い記述のほか、

スペインやフランスの詩人の次のような言葉が、印象深く紹介されていました。

 ・「過ぎしむかしは すべていまにまされり」(スペインの詩人ホルケ・マンリーケ)

 ・「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく」

  (フランスの詩人ポール・ヴァレリー)


「大衆の本質」と「民主主義の限界」について、とても学ぶことの多い一冊でした。