しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

人類史上最大の惨戦

台風19号の進路から遠く離れた、こちら愛媛でも、今日は強い風が吹いた一日となりました。

今回の台風で被災された皆様には、心よりお見舞いを申し上げます。


さて、『独ソ戦~絶滅戦争の惨禍』(大木毅著:岩波新書)を読了しました。

たくさん印象に残る記述がありましたが、そのうちのいくつかを、

次のとおり、この日記に書き残しておきます。


スターリンは、目前に迫ったドイツの侵攻から眼をそむけ、

 すべてはソ連を戦争に巻き込もうとするイギリスの策略であると信じ込んだ。あるいは信じたがった。

 不愉快な事実を突きつけられたにもかかわらず、起ってほしくないことは起こらないとする

 倒錯した「信仰」のとりことなったのだ。


ヒトラーは、国益は条約よりも上にあるものだとし、永遠に有効なのは成功であり、

 力なのだと述べている。


・たとえるなら、いかなる巨人であろうとも、神経や血管を断たれれば、

 存分に腕力を振るうことはあたわぬ。軍隊も同様で、通信網や補給線を切られたなら、

 兵力としては存在していても、戦力として有機的に機能することは不可能となる。


・近代用兵思想に大きな影響をおよぼした「戦争論」の著者カール・フォン・クラウゼヴィッツは、

 敵のあらゆる力と活動の中心が「重心」であるとし、

 全力を以て、これを叩かなければならないと論じた。

 敵の軍隊が重心であれば軍隊を撃滅し、党派的に分裂している国家にあっては首都を占領し、

 同盟国に頼っている弱小国の場合は、その同盟国が派遣する軍隊を攻撃するべしというのが、

 クラウゼヴィッツの主張であった。にもかかわらず、クラウゼヴィッツの後裔たちは、

 対ソ戦の遂行において、敵の重心は何であるかを考えなかった、

 あるいは、それはモスクワにちがいないと、確証もなしに信じ込んだのである。


クラウゼヴィッツは、戦争の本質が、敵に自らの意志を強要することである以上、

 敵戦闘力を完全撃滅し、無力化する「絶滅戦争」を追求するべきだと考えた。

 けれども、現実には、さまざまな障害や彼のいう「摩擦」、また、政治の必要性などによって、

 戦争本来の性質が緩和されるために、

 絶対戦争が実行されることは例外でしかないとみなすようになったとされる。

 だが、ヒトラーは、まさにその例外を実現しようとしていた。


独ソ戦終結から70年以上を経ても、この戦争の余波は消え去ろうとはしていないのである。

 絶滅・収奪戦争を行ったことへの贖罪意識と戦争末期におけるソ連軍の蛮行に対する憤りはなお、

 ドイツの政治や社会意識の通奏低音になっている。

 敢えてたとえるなら、ドイツ人にとって独ソ戦の像は、

 日本人が「満州国」の歴史や日中戦争に対して抱くイメージと重なっているといえよう。

 その意味で、この戦争の実態を知ることは、ドイツ現代史、

 ひいては、ドイツの現状を理解する上で重要な前提になろうし、

 おそらくは、昭和戦前期の歴史をアクチュアルな政治問題として抱える日本人にとっても

 有益になるはずだ。


いや、これらの記述以外にも、次のような驚くべき数字の記述も、

決して忘れてはならないと思いました。

ソ連は1939年の段階で、1億8879万3000人の人口を有していたが、

 第二次世界大戦で戦闘員866万8000ないし1140万名を失ったという。

 軍事行動やジェノサイドによる民間人の死者は450万ないし1000万人、

 ほかに疫病や飢餓により、800万人から900万人の民間人が死亡した。

 死者の総数は、冷戦時代には、国力低下のイメージを与えてはならないとの配慮から、

 公式な数字として2000万人とされていた。

 しかし、ソ連が崩壊し、より正確な統計がとられるようになってから上方修正され、

 現在では2700万人が失われたとされている。


・対するドイツも、1939年の総人口6930万人から、戦闘員444万ないし

 531万8000名を死なせ、民間人の被害も150万ないし300万におよぶと推計されている。

 (ただし、この数字は独ソ戦の損害のみならず、他の戦線でのそれを含む。)

 このように、戦闘のみならず、ジェノサイド、収奪、捕虜虐殺が繰り広げられたのである。

 人類史上最大の惨戦といっても過言ではあるまい。


う~む‥‥。(絶句) 言葉を失ってしまいます‥‥。

人間というのは、ここまで残酷になれるものなのでしょうか?

教科書ではほんの数行しか書かれていない独ソ戦の悲惨な実態を、

この歳になって初めて知ることになりました。是非、一読をお薦めしたい一冊です。

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)