「昭和陸軍の軌跡〜永田鉄山の構想とその分岐」(川田 稔 著:中公新書)を読了しました。
この本を読んで、昭和戦前期の歴史について、
いかに自分が浅い知識しか持っていなかったかを知ることができました。
著者が本の「あとがき」で書かれているように、
昭和陸軍に対する一般的な見方は、次のようなものであったとされています。
・対米開戦時、陸軍は戦争終結の見通しをまったくもたず、戦争に突入した。
・日米戦争は、中国市場の争奪をめぐる戦争だった。
・日中戦争の解決が困難となり、
陸軍はその状況を打開するために南方進出を図り、対米英戦争へ進んでいった。
これに対し、著者は、
・田中新一参謀本部作戦部長や武藤章陸軍省軍務局長らは、
一応戦争終結方針を考えていたのであり、
東条英機首相兼陸相も、彼らの方針を了承していた。
・対米開戦は必ずしも日中戦争の解決を主動因とするものではなく、
また別の要因によるものであった。
本書で著者は、
満州事変以後の昭和陸軍を実質的にリードしたのは、陸軍中央の中堅幕僚層で、
その中核となったのが永田鉄山を中心とする「一夕会」てあるとし、
政党政治的な方向への対抗構想ともいえる永田鉄山の構想が、
昭和陸軍を主導する一つの重要な推進力となったと指摘しています。
また本書では、皇道派と統制派との陸軍派閥抗争や
盧溝橋事件を巡る石原莞爾と武藤章との対立、
さらには、日米交渉と日米開戦に係る関係者の苦渋の決断など、
日本史の教科書では決して知ることのできない事実が展開されています。
歴史に「もしも」はタブーだと思いますが、
「もし永田鉄山が暗殺されなかったら」、
「もし石原莞爾が更迭されなかったら」、
日本という国はどうなっていたのか、なとどと考え込んでしまいます。
昭和陸軍に対する新しい視点を提示した著書であり、是非一読をお薦めします。
- 作者: 川田稔
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/12/17
- メディア: 新書
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