しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

経済学は万能薬か?

「経済学に何ができるか〜文明社会の制度的枠組み」(猪木武徳著:中公新書)を読了しました。

猪木先生といえば、同じ中公新書から出版されている「戦後世界経済史」の著者として、
また、日経新聞「歴史と思想に学ぶ」シリーズの執筆者として有名です。
私が本書を購入した動機は、著名な猪木先生の著作であることと、
帯紙に、「ユーロ危機」、「格差と貧困」、「自由と平等のバランス」などの
「現代の難問の解」をさぐるという、購買意欲をそそる言葉が並んでいたからです。

さて、その「現代の難問の解」は、本書を読めば判明するのでしょうか?
猪木先生は、「経済学に何ができるのか」について、次のように述べられています。
おそらく、この部分が本書のエキスだと思うので、長くなりますが引用させていただきます。

『「経済学に何ができるのか」と問うことが本書の目的であった。
 経済学は社会の経済問題に一刀両断に明快な答えが与えられるものではない。
 むしろそうした明快な、強すぎる主張には用心すべきであろう。
 個々人の私的問題はもちろん、社会問題には、必ず経済的な側面がある。
 しかし、純粋な経済問題はこの世には存在しない。
 純粋な経済問題と見える場合でも、その根源や成り立ち、
 そして全体的な姿に迫ろうとすれば、そこに経済外的な要因が必ず見つかる。
 この世の多くの問題が、「純粋に経済的」でないとすれば、
 経済的な側面に限定してその問題にメスを入れる経済学だけではその問題は解決しないはずだ。 だからこそ、経済学者による専門的判断ではなく、
 健全な価値観と判断能力を持ったアマチュアの生活者としての知恵も必要とされる。
 賢明なアマチュアの提示した回答や疑問に対して、
 経済学からの回答を経済学者は準備しなければならない。
 しかし経済学の役割はここまでである。
 何を重視したモデルに基づくかによって、経済学者の回答は同一でない場合が多い。
 したがって当然そこに「価値」の対立と相克が生まれることは避けられない。
 あとはデモクラテッイクな過程の中で
 議論を重ねながらなんらかの合意に達する道を探るというのが、
 リベラル・デモクラシーの文明社会に住む人間の義務と責任なのである。』

う〜ん、なるほど。そういうものですか…。
「解」を期待していた読者はがっかりするかもしれませんが、
経済学は万能薬でないのが理解できたような気がします。

この文章の中でも、私が特に重要だと思ったのが次の二つのセンテンスです。
 ・健全な価値観と判断能力を持ったアマチュアの生活者としての知恵も必要
 ・デモクラテッイクな過程の中で議論を重ねながらなんらかの合意に達する道を探る

猪木先生は、経済学の役割とその限界を明確にした最近の事例として、
TPP参加問題とギリシャの財政危機に端を発するユーロ危機を挙げられています。
興味のある方は、是非一読をお薦めします。