しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

地方分権を再考する

ぎょうせいの創業120周年企画として出版された
「自治・分権再考〜地方自治を志す人たちへ」を読了しました。
著者は、行政学の第一人者で、
現在は第30次地方制度調査会の会長をされている西尾勝先生です。

この本は、西尾先生が、
福井県福井市など全国4か所で行われた、
巡回10時間集中セミナーでの講義を1冊にまとめたものです。

「開講の辞」では、
西尾先生が、なぜ巡回10時間集中セミナーを引き受けたのか、
その動機と経緯について述べられています。
その中でも、
「私は、最近の地方分権改革に対する自治体関係者からの改革要求に
 強い危惧の念を覚えざるを得なくなってきていた」という言葉がとても印象的でした。

西尾先生の危惧は、大きく分けて次の3点にあるとされています。
 ①地方分権改革の究極の目的が、正しく理解されていないのではないか。
 ②地方分権改革のむずかしさが、的確に認識されていないのではないか。
 ③地方分権改革に対する要求が、いささか行き過ぎているのではないか。

そして、本文を読み進むうちに、
西尾先生のお考えを、最も端的に現している個所にたどり着きました。
『現在、地方分権改革をめぐる論議は多極分散型になり、
 いわば全方位作戦なってきている。
 一致団結すべき地方六団体間の足並みが乱れてきている。
 さらに、地方六団体側の改革要望が行き過ぎになってきていて、
 都道府県と市町村間の対立、首長側三団体と議長側三団体の対立といった
 複雑な対立構造になってきている。
 自治体職員は、こうした最近の分権改革論議の動向に一喜一憂し右往左往することをやめ、
 地方分権改革の既往の成果を活用することにこそ専心してほしい。
 これが私の切実な願いである。』

西尾先生の御指摘のとおり、
私たち地方自治体の職員は、一度立ち止まって、
これまでの地方分権改革の取組の成果を考え直す必要があるのかもしれません。、
一方で、地方自治体は常日頃から事務事業の「たな卸し」を行い、
時代のニーズに合わない規制などについては、
霞が関」や国会議員の先生方に、
今後も、その見直しを働きかける必要があるのではないかと思っています。

なお、この本では、
大阪都構想」や「道州制」、
さらには「東日本大震災」や「原発事故」など、
今日的な話題についても、西尾先生ご自身の思想を惜しむなく披歴されています。

現職の地方自治体職員はもちろんのこと、
これから地方自治を志す若い人にも是非お薦めしたい一冊です。
ぎょうせいから出た久々のヒット作だと思います。

自治・分権再考

自治・分権再考