しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

連想ゲーム的読書(その1)

夏目漱石の「こころ」を数十年振りに読み返したのを契機に、
その夏目漱石が、「これほど美しい日本語はない」と賞賛した
銀の匙」(中 勘助作:岩波文庫)を読み、
続いて、その「銀の匙」を教材にした灘校の実践的授業から国語の学び方を伝える
「〈銀の匙〉の国語授業」(橋本 武著:岩波ジュニア新書)を読みました。

まるで読書の連想ゲームみたいです。
今日は、まず「銀の匙」の感想から書きます。

どちらかというと薄い文庫本で、しかも文章が平易そうなので、
すぐ読み終わるだろうと思っていましたが、読み終えるまでに時間を要しました。

ひ弱な主人公が、
伯母さんの愛情に包まれて成長していく姿を描いていますが、
第1刷が発行されたのが昭和10年ですから、
私が生まれる20年前に書かれた古い本です。

そのため、今ではおよそ解読できそうにもない語彙・言葉が所々にあって、
そのたびに巻末の脚注のお世話になる必要があります。
真面目に脚注を参照していると、結構読むのには時間がかかる本なのです。

本の内容ついては、
主人公が成長した「後篇」の方が、私には読み応えがありました。
文章も、「前篇」よりかは「後篇」の方が「奥深い」気がします。

和辻哲郎が「解説」で次のように書いています。
『「銀の匙」には不思議なほどあざやかに子供の世界が描かれている。
 しかもそれは大人の見た子供の世界でもなければ、
 また大人の体験の内に回想せられた子供時代の記憶というごときものでもない。
 それはまさしく子供の体験した子供の世界である。
 子供の体験を子供の体験としてこれほど真実に描きうる人は、
 〈漱石の語を借りて言えば〉、実際他に「見たことがない」。』

この本の魅力は、この解説に凝縮されていると思います。
実際のところ、私の場合、子供の時の記憶は、
幼稚園の頃をかすかに覚えている程度で、
ましてや、母の背におぶっさっている頃からの自分と自分の感情・感覚など、
全く思い出すことはできません。

それを見事に描き切れているこの本と著者は、
和辻哲郎に言わせると「神秘」、私には「奇跡」としか思えません。

銀の匙 (岩波文庫)

銀の匙 (岩波文庫)