今月26日の日経新聞「経済教室」は、
田中直毅・国際公共政策研究センター理事長の
『2013参院選−自公圧勝後の課題㊤〜迫る「保守」と「自由」の危機』でした。
田中理事長らしい、格調の高い論考でした。
さて、田中理事長は、
自由民主党という名の保守政党が勝利したという現実からすれば逆説的だけれども、
浮かび上がるのは、「保守の危機」と「自由の危機」だと指摘されています。
まず、「保守の危機」については、次のように述べられます。
『そもそも「保守」とは、
社会の根底にある慣習や、生活の中で育んできた哲学を尊び、
次の世代に受け継がせようとする思想だ。
世界的に見ると、保守の人々が最初に懸念するのは、政府赤字の拡大である。
赤字財政のもとでは、社会の持続性が失われるリスクの急拡大を、直感的に知るからだ。
〜(略)〜
赤字が累積していけば、どこかで「清算の日(デイ・オブ・レコニング)」が来る。
市場はそのことに敏感に反応する。
もし市場が「その日」が近づいたと確信すれば、
日本は国債、株式、通貨が暴落するなど急激な危機に見舞われる。
市場の混乱も、保守の地盤を崩壊させるだろう。』
次に、「自由の危機」については、次のように述べられます。
『デフォルトや金融市場の混乱を避けられたとしても、
社会的基盤が緩慢に弱体化していく可能性がある。
投資や雇用、賃金などが長期にわたって低迷し、社会全体を停滞感が覆う事態だ。
こうした社会では、最も「自由」な存在である企業は、国境を越えて流出せざるを得ない。
〜(略)〜
しかし、個人は企業ほど自由に働く場所を選べるわけではない。
こうした経済主体間の“自由の非対称性”は雇用や賃金の水準を低下させ、
結果として個人が手にしてきた自由を支える基盤を奪う。
自由の危機は、同時に保守の危機と並行して進行する可能性が高い。』
う〜ん、これを読む限り、自公政権になっても事態の深刻さは変わらないようです。
もともと、田中理事長は、
少子高齢化や財政赤字など、日本社会の持続可能性について、
これほどリスクが高まっている時期に、
決して一つの理念に賛同した人々が集まって結成した政党でない自民党が、
今回の参院選で政権基盤が強固になったとはいえ、
日本の明日を統一的に語り、潜在的な危機に対処することができるのかという
根本的な疑問を持たれているようです。
では、どうすればよいのでしょう?
田中理事長は、「清算の日」が来る前に、保守と自由の意味をもう一度考え直し、
新しい自助、共助、公助の仕組みを創造する必要があると強調されています。
ただ、その際に、自民党が従来のままであれば、
参院選では勝利したものの、
ビジョンを語り始めたときから、党内や社会にかえって亀裂が広がることを
懸念されているのです。
どうやら私たちも、
既得権益をしっかり守ろうとする「古い自民党」が顔を出さないか、
しっかり注視していく必要がありそうです。
良き慣習や哲学を次世代に引き継ぐという保守の思想を守りつつも、
懸案の先送りだけはなんとか避けたいものです。