しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

想像力の欠如と変動への準備

今月7日の日経新聞「経済教室」は、「日本の針路」シリーズの第2回目、
猪木武徳青山学院大学特任教授の『「中国リスク」に対応を』でした。
猪木教授の論考は、いつ読んでも格調が高いことを実感しています。

さて、この論考のタイトルは『「中国リスク」に対応を』でしたが、
そこに至るまでの前段部分の内容が、私にはとても勉強になりました。

猪木教授は、「いま世界で、どの国が政治的に安定しているのか、
社会的な不安が小さいのか」を探った報告が、
ロンドン「エコノミスト」誌に掲載されていることを述べられています。

そして、この報告の評価項目が次の5つの要素からなっており、
意外なことにこの調査結果では、日本が「極めてリスクの低い国」として、
ノルウェーに次いで世界第2位となっていることを紹介されています。

第一は、「社会的不安」であり、核物質の取り扱いをめぐる政府の管理能力
第二は、憲法体制が秩序ある政権の交代(権力の移行)を可能にしているか。
第三は、政体を揺るがすような国際紛争に巻き込まれているか。
第四は、現在あるいは将来の武力衝突の有無・可能性
第五は、デモや市民の暴力的な集団行動があるか。

この調査結果を受けて、猪木教授は次のように指摘されています。
少々引用が長くなりますが、非常に大切なことを書かれていると思うので、
この日記に残しておこうと思います。

『社会の安定性、あるいは将来の予測可能性は、
 政治と経済成長の関係を論ずる際の重要なファクターとなる。
 安全な国でなければ、外国からの投資も呼び込めない。
 観光客も二の足を踏む。政治的安定は経済成長の必要条件なのである。
 その点では、日本に政治的リスクは存在しないと素直に喜んでよかろう。
 戦前の日本のようにクーデタ計画が進行しているとの危惧を抱く向きは皆無ではあろう。
 政治上の激しい示威行動はなく、現在国際的な武力衝突問題を抱えているわけでもない。
 こうした日本の国内事情は、
 この地球上の多くの国家がいかに大きな社会不安を抱えているか、
 その社会不安はリーマン・ショックやユーロ危機以来、世界的にさらに広がり深まっており、
 世界の政治を極めて不安定にしているという冷厳な事実への認識を甘くする。
 この甘さは日本国内にある種ユーフォリア(陶酔)的な感情を
 醸成していると言っても過言ではない。
 日本が「極めてリスクの低い」国に分類されたという事実は、
 日本がもはや活力をむき出しにできない静かな国になってしまったことを
 意味してはいないだろうか。
 こう考えると、この結果を単純に喜んでよいのかという疑問もわく。』

う〜ん、参りました。
「冷徹な事実への認識を甘くする」とか「陶酔的な感情を醸成している」といった表現は、
ズシリと胸に突き刺さるものがあります。
私たち日本人は、国内に死活的な不安要素があまりないだけに、
「中国リスク」を含めた国際的な「リスク」に鈍感になっているのかもれません。

そして、論考の中の次のような一節は、
日本人の一人として、いつも肝に銘じておかなければならないと思いました。

『一国の経済発展は、
 その国の人々の知的エネルギーと活動への意欲が爆発し続けるプロセスである。
 そのエネルギーは、「行き過ぎ」がコントロールされうる限り、プラスの力を秘めている。
 エネルギーの過剰な放出としての「行き過ぎ」は確かにリスクではあるが、
 エネルギー自体を否定してしまえば、発展への動力源は失われる。』

『未来を予測することは困難と言うよりも、
 われわれの想像力をもってしては不可能に近い。
 こうした想像力の欠如から、われわれは普通の生活がこのまま単線的に続くと思い込み、
 予期せぬ変動への準備を忘れるのである。』

気が引き締まる論考でした。