昨日の続きです。
著書の中から、印象に残った箇所を拾い出して見ました。
掲載順に拾うと、次のようになります。(見出しは私が付けました。)
○人柄について
・「自慢しない。愚痴をこぼさない。他人の悪口を言わない。」という点で
彼(大平)には人徳があった。
○職業観について
・尤(もっと)も自分の適する天職に一生涯恵まれるというような幸運な人は
稀有なことであろう。たわいもない運命のいたずらで、
仕方なしに不似合いの職業にありつくのが、人の世の常のように思われる。
○リーダーシップについて
・人間というものは、労苦よりも安逸を求め、
生活の低きよりも高きを求めたがるものである。
政治がこの人間の本能に迎合して、その御機嫌をとるばかりでは、
その人のためにならないばかりか、国家と社会を滅亡と破滅に導くことになる。
その破局を避けるためには、人に真実を訴え、困難を説き、
それ相当の犠牲を求めなければならない。
このことがマッチーニ(19世紀イタノアの社会思想家・革命家)のいう
賢明なリーダーシップというものではあるまいか。
○日中関係について
・日中両国は、古くから一衣帯水の隣国であり、未来永劫そうである。
好むと好まざるとに拘わらず、相互に分別をもって、
平和なつき合いをしなければならない間柄である。
ところが、日中両国民の間には共通点より相違点が多く、
相互の理解は想像以上に難しい。
しかし、お互いに隣国として永久につき合わなければならない以上、
よほどの努力と忍耐が双方に求められるのは当然である。
○外交について
・大平は、第一に「対米自主」という言葉を意識しつつ、
「外交というのは、本来、自主外交に決まっているので、
自主外交でない外交なんてない」と断言する。
そして、外交の主体性の確立のために最も重要なことは、
「自分の力量や寸法」を見極めることにあるという。
第二に、外交が国益を守ることは自明の理であり、
その場合「遠い展望に立って、外交が国民の利益になるように
心がけなければならない。」とする。
第三に、外交の基本を内政との一本化におく。
外交は内政の外部的な表現であり、内政の確立なしに優れた外交の展開は難しく、
一国が国際的に信用されるか否かは、ひとえに内政の良否にかかっている。
この本が書かれたのは、2008年12月です。
著者は、本の「はしがき」で、次のようなことを書かれています。
『21世紀に入り、小泉純一郎をはじめとして、
メディアを意識した「ワンフレーズ・ポリティクス」、
善悪の対立を煽る「劇場型政治」が大きく台頭した。
政治家が、派手なパフォーマンスに力を入れ、真摯な言葉を放棄したとき、
国民を統合する長期的な展望を失うことは言うまでもない。
大平が思索し歩んできた「戦後」は、漂流する21世紀の政治に
何かを語りかけてくれるに違いない。』
2008年から5年という月日が経過して、昨今の政治情勢を見るにつけ、
著者が当時述べられたことが、今も全く変わりがないことに驚いてしまいます。
今こそ国民には、「真摯な政治家」と「真摯な言葉」が必要なのだと思います。
ところで、大平正芳さんのことが書かれた小説として、
以前この日記で、『茜色の空』(辻井喬著:文春文庫)を紹介しました。
こちらもとても素晴らしい本です。

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