今月20日の日経新聞「経済教室・エコノミクストレンド」は、
鶴光太郎・慶大教授の『就業支援は「性格力」重視で』でした。
まず、鶴教授は、
教育と労働の問題を統一的に考えるのに有益な考え方を提供している研究として、
米シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授らを中心とした
「非認知能力」の役割を強調した論文を紹介されています。
なお、「認知能力」がペーパーテストで測れる能力だとすれば、
「非認知能力」とはテストなどで測れない能力のことで、
先ほどの論文では、認知能力と非認知能力を、
それぞれ「認知スキル」、「性格スキル」と呼び換えているとのことでした。
鶴教授は、性格スキル=個人的形質とすると、
それが遺伝的なものでほとんど変わらないと考えてしまいがちだが、
むしろ人生の中で学ぶことができ、変化しうるものであると説明されています。
実際問題として、ヘックマン氏らは
米国で家庭環境に問題のある就学前の幼児に対する支援プログラムに着目し、
認知能力よりも非認知能力を向上させることで
その後の人生に大きなプラスの影響を与えることを強調してきたとのことでした。
性格スキルは幅広い学歴・職業で共通して重要であり、
その欠如が職業人生の失敗に強く結びついているのだとすれば、
それはどのように高めるべきなのでしょうか。
ヘックマン氏らは、すべてのスキルを形成する上で
幼年期が重要だという確固たるエビデンス(科学的証拠)はあるものの、
性格スキルは認知スキルに比べ後年でも伸びしろがあるので、
青年時の矯正は性格スキルに集中すべきだと主張しているとして、
鶴教授は次のように指摘されています。
『かつての徒弟制度では、若者が大人と信頼関係を結びながら指導や助言を受けた。
その中で技術のほかにも、仕事をさぼらない、
他人とうまくやる、根気よく仕事に取り組む、
といった貴重な性格スキルを教えられていたのでうまく機能していたと考えられる。』
そして、この論考の中で重要なポイントと思われるのが次の記述です。
『こうした視点に立てば、世界的にみても若年者や未熟練労働者、
失業者への教育訓練が必ずしも成果を上げていない理由も明白だ。
英財政問題研究会のバーバラ・シアニージ上席エコノミストによる08年の論文は、
スウェーデンで失業者が新たな職を見つけるために最も効果的な方法は、
民間に補助金を与えて常用として雇い入れるようなプログラムであり、
企業外でのフルタイムの授業による訓練は
何もプログラムを受けない失業者よりも就職確率がむしろ低下することを示した。
これも実際に企業で責任を持って働くことが
性格スキルの向上をもたらしたと解釈できよう。』
う〜ん、なるほど。そういうものなのですね。
鶴教授の論考を読んで、多くの高校や大学が実施している
「キャリア教育」や「インターンシップ」などの企業体験型学習も、
「性格スキルの向上」のために、とても大切なことではないかと考えた次第です。