今月28日から30日までの3日間、
日経新聞「経済教室」では、『エネルギー政策㊤・㊥・㊦』が掲載されました。
28日は、十市勉・日本エネルギー経済研究所研究顧問の『多様な選択肢が必要』、
29日は、橘川武郎・一橋大学教授の『東電、発電設備の売却を』、
30日は、須藤繁・帝京平成大学教授の『日中の争奪時代に対応を』でした。
それぞれの論考で、参考となる記述がありました。
まず、十市教授の論考では、
『国のエネルギー政策に求められるのは、
多元化した目標を長期的かつ総合的な視点から、どうバランスよく実現するかである。
なぜならば、これらの政策目標を実現しようとすると、
しばしば相互にトレードオフ(二律背反)の関係になるからだ。
例えば、原発ゼロによる電気代の上昇やCO2排出量の増加、
あるいは太陽光発電の大量導入による電力系統の不安定化や料金上昇などである。
このようなトレードオフを最小化するには技術革新が大きな役割を果たすが、
その普及には時間軸を考慮する必要がある。
〜(中略)〜
日本はできるだけ多様なエネルギーの選択肢を持っておくことが肝要である。
すべてのエネルギー源はそれぞれ長所と短所を持っており、
相互の弱点を補いながら、柔軟かつバランスのとれた需給構造を作るべきである。
その意味でも、安全が確認された原発を活用するという選択肢を排除すべきではない。』
次に、橘川教授の論考では、
『福島問題、東電問題を解決するうえでは、二つの原則を貫くことが重要である。
それは(1)誰が資金を負担するにせよ、
原発事故の被災地域できちんとした賠償、廃炉、除染が行われるようにすること
(2)東電という会社の存否にかかわりなく、
東電の供給地域で安定的で低廉な電気供給がなされるようにすること、
という2点である。』
最後に、須藤教授の論考では、
『日本のエネルギー輸入増よりも
さらに大きな伸びで日本を追い上げているのが中国である。
米国のエネルギー輸入量が減少する中、日中のエネルギー争奪戦が
世界のエネルギー貿易を巡る最も先端的な動きとなっている絵が浮かび上がる。
シェール革命によって国内エネルギー自給力を大幅に高めている米国は、
中東依存度が大きく低減しており、中東政策を根本から変える可能性がある。
一方、中国はエネルギー輸入大国として
シーレーン(海上交通路)確保を着実に進めている。
〜(中略)〜
エネルギー政策は総合的でなければならない。
エネルギーのサプライチェーンに一点の死角もあってはならない。』
こうして3人の先生方の論考を読むと、
エネルギー政策が、「国策」でなければならない理由がよく分かります。
日本では、水や電気が当たり前のように供給されていて、
その有難味について、ごく稀に断水や停電になる時以外は、考えることはありません。
しかし、歴史を振り返ってみると、
先の大戦は、米国に石油の輸出を止められたことが一つの契機でもあるし、
戦後は、2度の石油ショックや原発事故を経験しているし、
エネルギー政策が、身近な生活のみならず、
国の行く末を左右すると言っても過言ではないと思います。
須藤教授の言葉をお借りすると、エネルギー政策には、
サプライチェーンのみならず、総じて「死角」があってはならないのかもしれません。