しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

医療の公平性を考える

先月17日から28日まで、
日経新聞「身近な疑問を読み解く やさしい経済学」では、10回にわたり、
井伊雅子・一橋大学教授が、『第6章 医療の公平性とは』を執筆されていました。

その中から、勉強になった記述を、この日記に書き残しておきたいと思います。

・日本の医療制度で大切なのは、「公平」であること。
 医療における公平とは、一般に「アクセス(利用)の公平」、「負担の公平」、
 「給付の公平」を指す。

・医療は極めて専門性の高い世界なので、
 標準化されていないと患者は医療サービスの内容を的確に評価したり、
 理解したりすることが困難。これは経済学で「情報の非対称」と呼ばれる状態。
 医療制度を経済学の視点で考える際に、この点を踏まえることが重要。

・医療や介護分野に市場原理が導入されるのを危惧する声もある。
 しかし、問題なのは競争より、過度な商業主義。
 競争という言葉は一般に「勝負優劣を互いに競い争う事」の意味で使われる。
 しかし経済学では「公平または平等なルールのもとで、
 限られた資源を適切に配分するためのメカニズム」を指す。

・日本の医師は予防より治療を重視する傾向がある。
 多くの予防行為は保険でカバーされていない。
 病気の予防や重症化を防ぐのに重要なプライマリーケア(1次治療)の初期の段階で
 適切な情報提供がおろそかになり、患者の代理人としての機能を果たせていない。

・経済学では、個々人が自分にとって望ましい選択をすると考える。
 適切な制度設計をすることで、そこに登場するプレーヤー(医師、患者、保険者、政府など)が
 利己的な行動をとっても、社会全体として望ましい結果(配分)が得られるようになる。
 社会全体として望ましい結果を得るために、個々のプレーヤーのモラルに訴えることはない。
 医療分野でも、現在の出来形払い制度だけでなく、
 成果払い制度や一人の医師が担当する患者の人数に応じて
 収入が決まるような制度の導入も検討すべき。

・政府は医療や健康分野を成長産業にすると言っている。
 今後成長が期待される分野を選び、それに補助を与えて育成することが
 政府が果たすべき役割なのか。経済学者の間では、こうした考え方に懐疑的な人が少なくない。
 どの分野が本当に成長するかは、後になってみないと分からない。
 経済成長は、基本的には民間企業と市場によって実現される。
 政府の役割は、そのプロセスが邪魔されないように環境を整えること。

・皆が高いコスト意識をもち、
 優れた費用対効果を目指すプライマリーケアの専門家を多数育成したり、
 予防がインセンティブとなる支払制度を設計したりすることが重要。
 国民が安心して日常生活を過ごせる、こうしたセーフティーネットの整備が、
 まず政府が取り組むべき成長戦略ではないか。

私が病院に行っていつも思うのは、医師との意思疎通がうまく図れないということです。
医師から説明を受けても、こちらには専門知識がないので、
医師とその治療行為を、そのとおり信用するしかありません。
時々、心配になって、「病院を替えてみようかな」と思うこともあります。

このことを経済学では「情報の非対称性」といって、
井伊教授は、患者側に正確な情報が伝わる仕組みがなければ
市場原理はうまく働かないと説明されます。

さらに、井伊教授は、日本では、
医療についての情報を患者に分かりやすく伝える専門的な訓練を受けている
プライマリーケアの医師が少なく、自分や家族の健康問題を、
どこでどのように相談すべきかといった情報を得るのが難しいと指摘されています。

「情報の非対称性」があるために、患者がより高価な検査や治療を求め、
その結果、日本の医療費が膨張しているとすれば、大変由々しき事態だと思います。

医療の公平性を、経済学の視点から考えることの大切さを学ぶことができました。