『日本銀行』(翁邦雄著:ちくま新書)を読了しました。
この本の中では、第2章「主要中央銀行のトラウマ」が勉強になりました。
著者によると、中央銀行の金融政策形成は、
その国が遭遇した金融経済上の厄災に対する国民的な「トラウマ」に
大きく左右されると言うのです。
具体的には、次の記述です。
『米国は1930年代の大恐慌の経験を社会的トラウマとして持つ一方で、
失業のセーフティーネットは小さい。
そうした状況の下で、
連邦準備制度は物価安定と雇用の最大化という二つの責務を負い、
不況に対して概して敏感に反応する。
それを当然と考える米国の有識者の目からは、
欧州政府や欧州中央銀行の行動は理不尽に見える。
これに対し、ドイツのハイパーインフレの経験を
社会的トラウマとして持つと同時に、
失業に対しきわめて手厚いセーフティネットを各国が用意してきた欧州においては、
欧州中央銀行の物価安定への強いこだわりは不可避である。』
次に、第9章「中央銀行と財政政策」の中の、次の記述も印象に残っています。
『インフレ目標達成後も、財政の持続可能性維持のためには
低金利・高インフレが望ましい。
この財政の論理と、物価安定のためにはいつかは金利を引き上げ
インフレに歯止めをかけることを必要とするインフレ目標の論理は、
いずれ正面衝突する。』
う〜ん、いずれって、いつ訪れるのかな?
また、「あとがき」で述べられている
『量的・質的緩和は途方もない量の血液ドーピングを思わせる。』
という比喩も、分かりやすい「例え」でした。
『血液ドーピング効果については両論あるが、
持久力向上を狙ったアスリートによる血液ドーピングが
心臓や腎臓に過大な負荷をかけ、その生命を危険にさらす事例はあとを絶たない。』
経済の血液である通貨を潤沢に供給することは、一方では危険を伴うことなのですね…。
なお、外でもありませんが、「アベノミクスとデフレ脱却」の次の記述には、
思わず拍手を送りたい気持ちになりました。著者にとても共感を覚えました。
『安倍政権も賃金の引き上げには前向きである。
しかし、民間の賃金を上げようとするときに、
震災復興財源捻出のためとは言え、公務員給与をカツトしてよいのだろうか。
公務員カットは国民には人気がある。
しかし、こうした政策はデフレ脱却のために賃金を上げていく、
という方向とは矛盾する。』
いろいろとランダムに書きましたが、
中央銀行の使命や最近の金融政策を理解する上で、本書は最適な一冊だと思います。
- 作者: 翁邦雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/07/10
- メディア: 新書
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