私に近代短歌というものの鑑賞能力がないことはさておいて、
意外なことに、読み終わって一番感動したことに気がついたのは、
ある特定の短歌ではなく、「おわりに」の中にある次の文章でした。
著者の強烈な危機意識を感じることができます。
『学生に限らず、世の中、「知らない」と言うことが、
少しもはずかしいことではないという風潮が蔓延している。
もとよりこれだけ情報量が多くなった世界で、
しかも生き方や価値観が多様化している世界で、
皆が同じ読書経験を持ち、誰もが等しく知識を共有するなどということは、
期待するほうが無理というものだろう。
しかし、にもかかわらず、私は、現在の社会から、
共通の基盤というべきものが消失していく現状に危惧を抱かざるをえないのである。』
『現代では、同じ職場でも、同じ学校でも、そして同じ地域のなかでも、
人々の関係が希薄になってゆくことを嘆く声は大きいが、
そのひとつの理由には、
互いに話をできるだけの共通の基盤を持たないことがあるだろうと、私は思う。
私は教養という言葉を軽々しく使いたくないと思っている人間であるが、
教養というものを、みすからの知的好奇心によって収集された知識を内包しつつ、
その反映としての人間性の発露を言うとするならば、
ある程度の、あるいは最低限の共通の教養を持っているということは、
他の人々と接するための、つつしみぶかい礼儀の一つでもあると思うのである。』
さて、肝心な短歌に関することですが、
やはり私は、石川啄木の短歌に心惹かれるものがあります。特に望郷の歌が……。
京都で浪人生活、東京で大学生活を送っていた頃、
「ふるさと」というものは、本当に「ありがたき」存在であることを、
啄木の歌に教わったような気がします。
これから折に触れて、傍にあるこの本を開いてみたいと思います。
- 作者: 永田和宏
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