しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

知行合一の経済学

『経済と人間の旅』(宇沢弘文著:日本経済新聞出版社)を読了しました。

強烈に印象に残っている記述があります。それは次の記述です。

『〜(略)〜このような状況のなかで、
 いわゆる反ケインズ経済学と呼ばれるべき考え方が
 いくつかの衣を装って登場してきた。
 ミルトン・フリードマンに代表されるマネタリズムの考え方、
 ゲイリー・ベッガーを中心とする合理主義経済学、
 ルーカス、サージェントたちの合理的期待形成仮説、
 アーサー・ラッファー、マーチン・フェルドスタインの
 定式化したサプライサイドの経済学などである。

 これらのアプローチは、
 いずれも新古典派経済学の精緻化、具体化とみなされるもので、
 その理論前提の非現実性、演繹過程の粗雑さ、政策的偏向という点から、
 もっとも問題点の多い考え方である。

 ところが、経済学の危機的状況の下で、
 このような考え方が単に経済学研究についてだけでなく、
 現実の政策的な面でも無視できない力をもってくるようになってきた。
 この点に「経済学の第二の危機」的状況があるといってもよい。』

本書には、「マネタリズム」や「合理的期待形成仮説」、
「供給サイドの経済学」を辛辣に批判する記述が、このほかにも登場します。

おそらくそれは、宇沢先生の「経済学」についての次の定義から
これらの理論が逸脱しているからではないかと、私なりに勝手に想像した次第です。

『〜(略)〜それは、経済学が、
 人間の営む経済行為を直接の対象とし、
 現在の経済現象とその制度的な要因を解明するだけでなく、
 表層的な経済現象の深部にひそむ本質的な諸要因を引き出し、
 経済社会の基本的な運動法則を明らかにするという知的な目的と、
 
 同時に、貧困の解消、不公正の是正、安定的な資源配分を求め、
 調和のとれた経済発展の可能性を探るという、
 すぐれて実践的な意図をあわせもつということである。』

本書の帯紙には、
「戦後日本を代表する知識人の格闘の軌跡」と書かれていました。

本書は、「知行合一」の経済学者である宇沢先生の
「人生の軌跡」とその「人となり」、
そして経済に関する「考え方」を学べる、絶好の「教科書」だと思います。

経済と人間の旅

経済と人間の旅