『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール著:文藝春秋)を読了しました。
なかなか面白い本でした。
いつものように、印象に残った記述を、以下のように抜き出してみました。
・歴史家のポピュビオスは、国家が監査官を10人雇って
公的監査を徹底したところで、人間が正直になるわけでない、
頭のいい人間は必ず帳簿を操作する、と指摘している。
・富と信心の両方を追及する中世の商人にとって、利益は悩ましい問題だった。
中世イタリアの商人は帳簿はつけていたものの、
「最後の清算」を行うのが人間ではないことを片時も忘れたことはない。
それをするのは神である。とはいえ人間には善行をすることができたし、
それは神の審判を受けるときに備えて大いに意味があると考えられた。
・ホアン・デ・オヴァントは、国家財政の立て直しが容易な仕事でないことを
よく承知しており、「財政は政府の人間にとって恐怖の的である。
なぜなら、その実態を把握している者はほとんどいないからだ」と述べている。
・オランダ黄金時代の教訓は、こうだーーー会計責任を果たそうとする者は、
会計を習得することにまず苦労し、次にその正当性を実証することに苦労する、
ということである。
・ルイ14世は伝統的な人文主義的教育と、コルベールや学者たちから教えられた
実務知識や法律知識の両方を身につけた。
古典の教養が大切であることは言を俟たないが、
一国を効率的に運営するとなれば、教養だけでは足りない。
国王ルイ14世と財務総監ジャン=バディスト・コルベールによって
会計と伝統的教育はみごとに融合され、巨大国家の統治力に力を発揮した。
・ビジネスにおいてと同じく人生においても、快楽と苦痛の収支尻を合わせ、
富ならず幸福を増やすことは困難な課題である。残念ながら18世紀末の時点では、
商業の繁栄に個人の幸福は釣り合っていなかった。
・結局フランス革命は、責任ある代議政治の確立にはいたらなかった。
それでも、財務リテラシーと会計責任の文化を政治に持ち込み、
未来への会計改革の道筋を作ったことはまちがいない。
・イタリア商人の冒険的航海の伝統からも容易に想像されることだが、
大勢の共同出資者が関係する事業では、
帳簿をきちんとつけることが非常に重要である。
大洋航海でも、貿易会社でも、そして植民地経営でも、そうだ。
・ハミルトンは、国力の多くが結局は財政に帰着すると考えていた。
「権力とは、要するに財布をしっかりと握っていることだ」と彼は強調し、
財政の掌握こそが「権力に実体を与える」と述べている。
・会計は複雑な企業財務と責任の迷宮を道案内してくれる
アリアドネの糸であるべきだが、この糸は摑んだと思ったら消えてしまう。
・経済の破綻は、単なる景気循環ではなく、
世界の金融システムそのものに組み込まれているのではあるまいか。
金融システムが不透明なのは、けっして偶然ではなく、
そもそもそうなるようにできているのではないだろうか。
本書でたどってきた数々の例から学べることがあるとすれば、
会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである。
ラビュリントス(迷宮)から脱出する道を教えた。
そこから、難問を解く方法を「アリアドネの糸」というそうです。
帳簿こそが「アリアドネの糸」であること、
そして、「歴史の裏には全て、帳簿を駆使する会計士がいた」ということが、
決して誇張でないことが、この本を読んでよく理解できました。