どこで鳴いているのか姿は見えませんが、
今日、自宅の周辺でセミの鳴く声を聞きました。梅雨明けが近いのかもしれません。
季節が確実に移ろっていることを実感します……。
さて、20年以上も書棚のなかで積読状態にあった、
先の大戦では、一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、
戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた井上成美…。
その人柄や思想は、本書に登場する次のような語録で理解できます。
『油はもうこれだけしかありませんと、ただ真ッ正直に奉答するのが米内さん。
油は未だこれだけございますが嶋田大将。
天子様に平然と嘘をつき、陸軍の言いなりになって国を亡ぼす。
『ちゃんとした教養と知性を備えたジェントルマンなら、
戦士としても立派に戦うんです。西欧だけでなく、日本にもその例はありました。
前の戦争での、学徒出身の士官たちがそうですね。
「きけわだつみの声」に出て来る人々です。
あの人たちの多くは、あのいくさに疑問も不信の念も持ちながら、
祖国への義務感、エリートとしての責任感から、
身を挺して立派に戦って命を捨てました。その責任感を支えたものは、
大学で学んだ教養ではないですか。私はそう思います。
あの人たちの死を思うと、今でも私は身を切られるような感じがするのです。』
『(日本海軍の本質は、) 根無し草のインターナショナリズム。
陸軍が、あれも俺の権限、これも俺の領分と、強欲で傍若無人だったのに対し、
海軍は、あれも自分の責任外、これも自分の管轄外と、
常に責任を取るのを回避した。』
『折々の風俗で、時流に乗って人は色んなことを言うけれど、
どんな時世であろうと、教養の裏打ちのある心の位取りが高い人間を創る、
それがほんとうの学士教育ではないだろうか。』
井上成美は最後の海軍大将で、帝国海軍きっての知性といわれたそうです。
あの国粋主義賛美の大戦の最中に、このような人物が軍隊上層部に存在したことは、
私には、ほとんど奇跡のように思われました。
「知的勇気」とは何かについて、考えさせられる本でした。