今月23日の朝日新聞「天声人語」を読んで、目頭が熱くなりました。
少々長くなりますが、その全文を省略せずに引用させていただきます。
『引っ越し作業が続く福島県警双葉署を訪ねた。
ここは福島第一原発から約9キロ。
6年前の事故であたりの人々はみな避難させられ、
警察署も隣町の「道の駅」に仮住まいしてきた。
今月末、ようやく元の庁舎で本格的に仕事を再開する。
署のすぐ隣の児童公園にはパトカーが1台、保管されている。
ハンドルは折れて曲がり、ワイパーが柳のように垂れさがる。
サイレン灯もなければ、車体に「警察」の文字もない。
一目見るだけで、津波のすさまじい破壊力を実感させられる。
6年前の3月11日、署員2人がこのパトカーに乗り込み、
海岸付近で住民に避難を呼びかけた。「車を置いて早く避難を」。
2人は津波にのみこまれる。うち1人はいまなお行方不明のままである。
パトカーは沿岸部に残されていた。いつしか簡素な祭壇が設けられ、
住民はもちろん、遠く県外から派遣された警官たちも手を合わせた。
住民らから保存を求める声があがり、2年前に公園へ移された。
「想像を絶する津波が迫る中、自らの命を犠牲にして住民を救おうとした。
そんな警察官のことをパトカーは後の人々に伝えてくれる」。
双葉署復興支援係の寺坂健警部補(30)は話す。
この春、署がある富岡町でも避難指示が一部で解かれ、住民の帰還が始まる。
もとの家に戻れない人々にとっても、
わが町に警察署があるという安心感は大きいだろう。
もう人の乗ることのないパトカーの脇には、
色鮮やかなユリやキク、2本の缶コーヒーが供えられていた。』
このコラムを読んで、いくつか学んだことがありました。
一つ目は、人間には崇高な自己犠牲の精神が備わっているということ。
二つ目は、そうした精神に支えられた究極の善行を、
天の声として世に知らしめていくことが、一面コラムの社会的使命であること。
三つ目は、私たちの目の前に、当たり前のようにある安心・安全は、
多くの方々の献身的な行動によって支えられていること。
伝説のコラムニスト・深代惇郎さんを生んだ朝日新聞「天声人語」…。
今回のような市井の方々に寄り添った名文(特に最後の二行は、たった二行だけれど、
実に心に染みるものがあります。)に出合うと、
高校・大学生の頃から数十年経った今も、この一面コラムを読まないと、
なんとなく一日が落ち着かないその理由(わけ)が、分かったような気がします。
朝日新聞全体を貫く主義・主張には、ついて行けないことが多々ありますけど…。(笑)