現在は第一生命経済研究所特別顧問をされている松元崇さんが、
『経済学の理論とコモン・センス』というタイトルの「時評」で、
「デフレ脱却には財政赤字が有効」というシムズ理論(FTPL理論)を
取り上げられていました。
松元さんは、このFTPL理論はコモン・センス(常識)に反するとしたうえで、
次のように述べられていました。
『FTPL理論に限らず、今日の経済学はモデルで世界を分析します。
モデルには前提があります。その前提が成立しなければ、モデルは机上の空論です。
シムズ教授のFTPLモデルの前提は、
前提を自由自在に変えられるというちょっと変わった前提です。
まずは人々が政府は財政再建に取り組まないとの期待を持つことによって
インフレになり、次には財政再建に取り組むと期待することによって
インフレが収まるというのです。ちなみに、前者の前提だけでは
政府が野放図に財政赤字を垂れ流すという期待から
ハイパー・インフレーションになってしまいます。
後者の前提は、古典派の経済学がいう「リカードの中立命題」というものです。
二つの前提の使い分けについて、シムズ教授は
「それが成功するかどうかは、政策当局者が将来の民間の意識を
変えられるかどうかに懸かっています。
ただ、非常に難しいことであることは確かです」(週刊ダイヤモンド、2017.2.18)
と述べています。』
続いて松元さんは、「すべての価値は労働から生まれる」という
マルクス主義経済学の「労働価値説」と
「企業も個人も政府の裁量的経済政策の結果を正しく予想して
合理的に行動するのでケインズ的な経済政策には効果がなく、
正しい経済政策はマネタリー・ベースを安定的に増加させる金融政策だけだ」
とする、1980年代頃に一世を風靡した「合理的期待形成仮説」の
二つの経済理論を例に挙げて、次のように述べられていました。
『そのような経済学の理論による政策のツケを払うのは国民です。
労働価値説に従った政策はソ連で失敗しました。ロシアのGDPは今や韓国並みです。
合理的期待形成仮説などに従った米国レーガン政権は
大きな財政赤字を残しました。
それをFTPL理論に基づく政策でさらに積み上げるツケは将来世代に回ります。
コモン・センスに反する話には、注意してかかる必要があります。』
う~む、なるほど……。
・今日の経済学がモデルで世界を分析すること
・モデルには前提があること
・その前提が成立しなければ、モデルは机上の空論であること
については、なんとか理解できました。
でも、経済学の理論が、そもそもコモン・センス(常識)に反するのかどうか、
個人レベルで判断するのはとても難しいように思います。
コモン・センスのレベルが高いのか、それとも私が勉強不足なのか…。
……後者のような気がします。