しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

たとひ力は乏しくも……

『詩のこころを読む』(茨木のり子著:岩波ジュニア新書)を読了しました。

 

この本の「はじめに」での著者の記述によると、

この本で紹介されている詩は、

「心の底深くに沈み、ふくいくとした香気を保ち、

私を幾重にも豊かにしつづけてくれた詩」ということで、

著者によって選ばれた詩もさることながら、著者の解説が素晴らしかったです。

 

その選ばれた詩の中でも、今の私が一番印象に残ったのは、

河上肇詩集の「老後無事」という詩と著者の解説でした。

(河上肇(1879-1946)は経済学者。

京大教授の席を追われ、戦前の左翼の地下活動、検挙、5年近くの獄中生活、

敗戦の翌年死亡という、波乱に富んだ生涯を送った人。)

 

まず、その詩というのは、

『たとひ力は乏しくも 出し切つたと思ふこゝろの安けさよ。

 捨て果てし身の なほもいのちのあるまゝに、

 飢ゑ来ればすなはち食ひ、渇き来ればすなはち飲み、疲れ去ればすなはち眠る。

 古人いふ無事是れ貴人。

 羨む人は世になくも、われはひとりわれを羨む。』

 

次に、著者の次のような解説がありました。

『この詩は出獄後のものですが、

 学者としての活動もできない孤独でさびしい日々に、

 こういう清澄で張りのある心境をもち続けられたということに溜息が出ます。

 河上肇ほど偉い学者でなくても、どんな職業であっても、

 「たとひ力は乏しくも 出し切ったと思うこゝろの安けさよ」

 このあたりまでは、誰でも行くつもりなら行けるのではないかしら。

 このあたりまではともかく生きてみなくちゃならないのかもしれない、

 そんな大きな励ましすらあたえられます。

 「古人いふ無事是れ貴人。」は、すばらしい一行。』

 

昨日のこの日記のタイトルではありませんが、

「もう少し頑張ってみよう」と、生きる力を与えてくれる詩だと思います。

なお、著者は「いい詩」というのはどういうものか、

本の「はじめに」の冒頭で、次のように述べられていました。

『いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。

 いい詩はまた、生きとし生けるものへの、

 いとおしみの感情をやさしく誘い出してもくれます。

 どこの国でも詩は、その国のことばの花々です。』

 

とにもかくにも素晴らしい本でした。

もう少し若い時にこの本に出合っていたら、

私のその後の人生も、もっと心豊かなものになっていたのではないか、

そんな気持ちにさせてくれる本です。

これからの若い方に、是非一読をお薦めしたい一冊です。

 

詩のこころを読む (岩波ジュニア新書)

詩のこころを読む (岩波ジュニア新書)