しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

「空気」という元凶

商工中金危機対応業務にかかる第三者委員会の調査報告書(要約版)が、

岡本全勝・内閣府参与のHPで引用されていたので、私も興味があって目を通してみました。

その報告書には、組織と組織で生きる人間にとって、示唆と教訓に富む記述が数多くありましたが、

私は次の二つの記述が強く印象に残りました。


『 ~(略)~ ところで、不祥事が発生した場合、

 誰もが「現実から目を背けたい」「現実を小さく見せたい」という気持ちになる。

 不祥事が重大であればあるほど、そのような気持ちは増幅される。

 これは自然な心情であるが、この心情に従えば、不祥事はうやむやに処理される。

 しかし「目を閉じれば世界はなくなる」わけではない。

 問題解決の先送りは、後日必ず発覚して、傷口をさらに拡大させる。

 したがって、危機管理では、事実を正面から見据え、透明性をもって解決するという姿勢が不可欠である。

 そして、それを可能にするのは、危機管理を実行する者の強い意思とリーダーシップである。

 しかし、商工中金では、そのような危機管理は行われなかった。』


『明確な決断に基づく組織的隠ぺいであれば、

 その元凶となるリーダーを捕らえて処罰すれば、原因が除去される。

 これに対して、池袋事案型の不祥事は、法律構成要件的に「犯人」を捕らえることは困難である。
 ※池袋事案(商工中金池袋支店での不正疑義案件に対する監査部による特別調査で、複数の営業担当者による
  110 件の試算表の自作・改ざんを把握しながら、最終的には「不正行為は認められない」として単なる
  内部規定違反として処理されていたこと)

 
 無理矢理「犯人」を捕らえたとしても、不祥事を起こした元凶は除去されない。

 なぜなら、不祥事の元凶は「空気」であり、「空気」は処罰できないからである。

 当委員会は、このような形での隠ぺい行為は、商工中金だけに発生する特殊・例外的な事案ではなく、

 日本型不祥事の典型であると考える。

 この種の日本型不祥事は、同質集団が罪の認識を欠くまま進行していく。

 自ら止まることもなければ、それを止める人もいない。

 その結果、自覚症状のないまま、いつの間にか組織は蝕まれ、致命的な状況にまで至ってしまう。

 この意味で、決断に基づく悪事に比べてより性質(たち)が悪い。』


う~む‥‥‥(沈黙)。

まるで『失敗の本質~日本軍の組織論的研究』(中公文庫)を読んでいるかのような錯覚を覚えました。

「空気は処罰できない」というのは、「誰も責任を取らない」と同義語ですよね‥‥。


ところで、日経新聞に連載中の

斎藤惇・日本取引所グループ最高経営責任者の「私の履歴書」は、最終回が近づいてきました。

今日29日は『山一自主廃業』というタイトルで、エッセイの最後は次のような文章でした。

『山一(証券)は65年不況で破綻し、日銀の特別融資で救済された。

 旧日本興業銀行などと近かった当時の山一は、金融システムの中で重要な役割を負っていたのだ。

 時代が昭和から平成に変わり業績の面で見劣りするようになっても、

 自分たちは特別という意識があったのかもしれない。

 給料が野村と同水準だと知り「それじゃ、もたないだろう」と懇意の山一役員に忠告したことがある。

 「そうだと思う」と彼は答えた。問題の所在も、とるべき手だても明らかだった。

 運命に導かれるように破綻していった山一に欠けていたものは、ただ一つ。

 決断するということではなかったか。』


「危機管理を実行する者の強い意思とリーダーシップ」、そして「決断力」‥‥。

言葉にするのは簡単ですが、「空気」が支配する日本型組織のなかでこれを発揮・実行するのは、

その立場に置かれた時には、‥‥うまく言えないけれど、とても困難を伴うのではないかと思いました。