しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

「生きがいとは何か」を学ぶ

定年退職後に転職などを経験する過程で、

自らの「生きがい」について日々悩み、そして、日々考えることが多くなりました。

そのような精神状態のなかで、かつて購入した『生きがいについて』(神谷美恵子著:みすず書房)が、

書棚に眠っていることを思い出し、最近になってその全文をようやく読了しました。

読んだ後の本書は付箋だらけになっていましたが、そのなかのいくつかを次のとおり、

この日記に書き残しておこうと思います。


・ほんとうに生きている、という感じをもつためには、

 生の流れはあまりになめらかであるよりはそこに多少の抵抗感が必要であった。

 したがって生きるのに努力を要する時間、生きるのが苦しい時間のほうが

 かえって生存充実感を強めることが少なくない。

 ただしその際、時間は未来にむかって開かれていなくてはならない。

 いいかえれば、ひとは自分が何かに向かって前進していると感じられるときのみ、

 その努力や苦しみをも目標への道程として、生命の発展の感じとしてうけとめるのである。


・ところで生きがいということがとくに認識上の問題になるのはどういうときであろうか。

 いうまでもなく青年期は一般に、もっとも烈しく、

 もっとも真剣に生の意味が問われる時期である。

 若いひとたちに日頃接している者ならば、だれでもおぼえがあろう。

 いったいどうして勉強などしなくてはならないのか、どうして生きて行かなくてはならないのか、

 どんな目標を自分の前においたらよいのか、

 と不安と疑惑にみちたまなざしで問いつめられたことを。

 このような問いに対してどのような態度をとり、どのような答えをなしうるか、

 ということが親たる者、教師たる者の試金石の一つである。


・現在の幸福と未来の希望と、どちらが人間の生きがいにとって大切かといえば、

 いうまでもなく希望のほうであろう。

 それゆえに高給でも将来性のない仕事ならば、えらばないほうがよいのである。

 将来性という観点からみれば、功なり名をとげたというような状態は、

 かならずしもうらやむべきものではない。若い人のほうが生きがい感を持ちやすい理由の一つは、

 彼らが過去という重い荷に制約されることなく、すべてを未来にかけて、

 わき目もふらずに何ものかを創り出そうと力のかぎりをかたむけうるからである。


・いずれにしても自分に課せられた苦悩をたえしのぶことによって、

 そのなかから何ごとか自己の生にとってプラスになるものをつかみ得たならば、

 それはまったく独自な体験で、いわば自己の創造といえる。それは自己の心の世界をつくりかえ、

 価値体系を変革し、生活様式をまったく変えさせることがある。

 ひとは自己の精神の最も大きなよりどころとなるものを、

 自らの苦悩のなかから創り出しうるのである。

 知識や教養など、外から加えられたものとちがって、

 この内面からうまれたものこそそのひとのものであって、何ものにも奪われることがない。


・余暇というものは、仕事が忙しいひとには思いがけない贈物のようにたのしいものであるが、

 生活全体が余暇になってしまったひとにとっては倦怠と苦痛でしかない。

 時間を「つぶす」ためにいろいろなことを試みてみても空虚さと無意味さの感じがつきまとう。


・人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。

 野に咲く花のように、ただ「無償に」存在しているひとも、

 大きな立場からみたら存在理由があるにちがいない。

 自分の眼に自分の存在の意味が感じられないひと、他人の眼にもみとめられないようなひとでも、

 私たちと同じ生をうけた同胞なのである。もし彼らの存在意義が問題になるなら、

 まず自分の、そして人類全体の存在意義が問われなくてはならない。

 そもそも宇宙のなかで、人類の生存とはそれほど重大なものであろうか。

 人類を万物の中心と考え、生物のなかでの「霊長」と考えることからし

 すでにこっけいな思いあがりではなかろうか。


本書の「はじめに」の書き出し部分で著者は、

『いったい私たちの毎日の生活を生きるかいあるように感じさせるものは何であろうか。

ひとたび生きがいをうしなったら、どんなふうにしてまた新しい生きがいを

見いだすのだすのだろうか。』と述べられていました。

本書を読み終えて、その答えには万人に共通のものはなく、

人それぞれが、それぞれの人生を「真摯に」生きる過程において見いだしていくものだ、

と教えられたような気がします。

そして、私個人としては、「希望」というものが、神谷さんも述べられているように、

生きていくうえでは極めて大切なものではないかと思っています。


なお、著者は、本書の「おわりに」で、

『現代日本の社会、さらには現代文明と人間の生きがいの問題は今後ますます

 大きくのしかかってくるであろう。現代文明の発達はオートメイションの普及、

 自然からの離反を促進することによって、人間が自然のなかで自然に生きるよろこび、

 自ら労して創造するろこび、自己実現の可能性など、

 人間の生きがいの源泉であったものを奪い去る方向にむいている。

 どうしたらこの巨大な流れのなかで、人間らしい生きかたを保ち、

 発見していくことができるのであろうか。』と述べられていました。

今現在を生きている私達に向けて、今は亡き神谷さんからの、とても重い問い掛けだと感じました。

(追記:私の書棚には、同じく神谷美恵子さんの『こころの旅』(日本評論社)が眠っています。)

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)