東日本大震災から7年の今日、批評家・随筆家の若松英輔さんが、
日経新聞文化欄に、『本当の幸せ』というタイトルの随想を寄稿されていました。
そのなかで、神谷美恵子さんの著書『生きがいについて(みすず書房)』のことが書かれていて、
それがとても胸を打つ記述だったので、
少々長くなりますが、その部分をこの日記に書き残しておこうと思います。
『精神科医であり、比類なき独創的な思想家でもあった神谷美恵子が、
主著である「生きがいについて」で、「生きがい」をめぐって次のような言葉を残している。
「生きがいというものは、まったく個性的なものである。
借りものやひとまねでは生きがいたりえない。
それぞれのひとの内奥にあるほんとうの自分にぴったりしたもの、
その自分そのままの表現であるものでなくてはならない。」
素朴だが、何と厳粛な言葉だろう。先に人生が「冒険」だと書いたのも比喩ではない。
多くの人の手を借りながらであっても、
私たちは大切なものを自分で見出(みいだ)していかなくてはならない。
今日で、東日本大震災から丸七年になる。この出来事は、私たちからさまざまなものを奪った。
ある人にとっては今も、奪われつつある状態が続いている。
世の中は、「復興」という言葉のもとに再建可能なものを新しく作ることに躍起になった。
しかし、私たちが考えなくてはならないのは、再建できるものを探すことだけではなく、
再建できないものを見つめ直すことではないだろうか。
失望を深めるためではない。真の意味で新生するため、それは本当に失われたのか、
見失ったのかを、しっかり感じ分けるためである。
失われた、そう感じるものの一つが「生きがい」ではなかったか。
「生きがいについて」で神谷は、生きがいは作りだすものであるよりも、
すでにあって発見すべき何かだという。
苦悩や悲痛を経験すると人は、生きがいを奪われたと思う。だが、神谷はこの本で、
誰も奪い尽くすことのできない、真の生きがいが存在すると語っている。』
若松さんが書かれている「神谷はこの本で、誰も奪い尽くすことのできない、
真の生きがいが存在すると語っている。」というのは、
私は、おそらくは次の記述ではないだろうかと思っています。
『いずれにしても自分に課せられた苦悩をたえしのぶことによって、
そのなかから何ごとか自己の生にとってプラスになるものをつかみ得たならば、
それはまったく独自な体験で、いわば自己の創造といえる。
それは自己の心の世界をつくりかえ、価値体系を変革し、
生活様式をまったく変えさせることさえある。
ひとは自己の精神の最も大きなよりどころとなるものを、
みずから苦悩のなかから創り出しうるのである。知識や教養など、
外から加えられたものとちがって、この内面からうまれたものこそ
いつまでもそのひとのものであって、何ものにも奪われることはない。』

- 作者: 神谷美恵子,柳田邦男
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2004/10/06
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ところで、孫娘は、東日本大震災が起こった2011年の5月に生まれました。
ですから、孫娘の年齢が「この震災から〇〇年」ということになります。
あの日、私の脳裏にインプットされた、テレビから流れた衝撃的な映像の記憶を、
いつの日か孫娘にも伝えたい、
そして、若松さんが書かれた「本当の幸せ」についても語り合いたいと思っています。