『戦略読書日記~本質を抉りだす思考のセンス』(楠木建著:ちくま文庫)を読了しました。
本書で紹介された21冊の本のうち、読んだことがあったのが『クアトロ・ラガッティ』(若桑みどり著)、
この二冊だけだったので、ちょっと情けない気持ちになりました。
でも、本書に書かれている内容はとても面白くて、しかも大変勉強になりました。
それは例えば、次のような記述です。
・理屈っぽくいえば、センスとは「文脈に埋め込まれた、その人に固有の因果関係の総体」を意味している。
平たくいえば、「引き出しの多さ」。
優れた経営者はあらゆる文脈に対応した因果のロジックの引き出しをもっている。
しかもいつ、どの引き出しを開けて、どのロジックを使うかという判断が的確、これもまたセンスである。
経験の量と質、幅と深さが「引き出し能力」を形成する。
・仕事で本当にものをいう人間の能力は、定型的なスキルというよりも、
センスとしか言いようのないものに根差している。スキルは取り換えがきく。センスこそが重要である。
・「情報の豊かさは注意の貧困をつくる」。ようするに情報と注意はトレードオフの関係にあるという洞察だ。
情報が増えれば一つひとつの情報に向ける注意量は必然的に減る。
情報が減ればそれに向ける注意量は増える。
なぜか。肝心の人間の脳のキャパシティがこれまでもこれからもたいして変わらないからだ。
・特定の文脈の中で戦略ストーリーを構想しようとする人にとって、
歴史はまたとない思考の材料を提供してくれる。歴史は文脈に埋め込まれたロジックの宝庫である。
歴史上の出来事はすべて「一回性」という特徴をもっている。その時空間の文脈の中でしか起きえない。
その文脈でどうしてそのことが起き、なぜそのような結果をもたらしたのかを論理的に考察する題材として、
歴史は最高に優れている。
・読書や勉強に限らず、どんな分野の仕事でも、優秀な人というのは「面白がる才能」の持ち主だ。
面白がるのは簡単ではない。人間の能力の本質のど真ん中といってもよい。
時間をかけてでもそうした才能を開発できるかどうか、ここに本質的な分かれ目がある。
・戦略のセンスを磨くためのいくつかのアプローチがのうちで、
読書はもっとも「早い・安い・美味しい」方法だ。
読書は経営のセンスを磨き、戦略ストーリーを構想するための筋トレであり、走り込みである。
即効性はない。しかし、じわじわ効いてくる。三年、五年とやり続ければ、
火を見るより明らかな違いが出てくるはずだ。
本書には、経営は「スキルよりもセンス」という記述が何度も出できます。
どうやらこればっかりは、努力しても身に着きそうにない「天賦の才能」のようです。
ひょっとしたら、「面白がる」ことならこの私でもできるような気がしましたが、
これも著者によると、簡単ではなさそうです‥‥。世の中は、甘くないですよね‥‥。
なにはともあれ、一読をお薦めしたい一冊です。

- 作者: 楠木建
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2019/04/10
- メディア: 文庫
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