NHKテレビテキスト、100分de名著『燃えあ上がる緑の木~大江健三郎』を読了しました。
テキストのなかで一番印象に残ったのは、四国の森の谷間に現れた「救い主」の「ギー兄さん」が、
小児癌におかされた「カジ」と呼ばれる十四歳の少年に語りかけた、次のような言葉でした。
『‥‥この世界で、なお時間が永遠に続いてゆく、たとえば百年続く。
ところがそこに自分はいない。いつまでも、この世界に戻っては来ない。
そのことを考え始めると、確かに底の測れないような寂しさだからねえ。
私も若い頃に、それを考えるようになって、恐ろしくてたまらぬ一時期があったよ、
若いといっても、いまのカジよりはいくつか年をとってからのことだけれども。
その恐ろしさは、この世界に生まれてきた者がみなとりつかれうる恐ろしさじゃないか?
特別な出来事がなくても、一般にね、人が生まれてこなければよかったと感じるのは、
そしてその後も世界は続く、ということで恐ろしくなる時じゃないだろうか?』
小説のこの言葉の引用に続いて、
テキストの執筆者である、作家の小野正嗣さんの、次のような解説がありました。
『そのような恐怖を人はどのようにして克服するのでしょうか?ギー兄さんがそこでカジに語るのが、
「一瞬よりかはいくらか長く続く間」ということなのです。
この言葉で、ギー兄さんが言おうとしているのは、人生に喜びや意味を与えるのは、
決してその長さではないということです。大切なのは、魂が喜びとも感動とも呼べるような
何か強く深く濃密なものに満たされる感覚に打たれるような瞬間‥‥
それがどれほどわずかな持続であれ、少なくとも一瞬よりかはいくらか長く続くわけです‥‥
を経験できるかどうかなのだと。』
う~む、なるほど‥‥。「永遠」に対抗しうる「一瞬」ですか‥‥。
誰もが経験する「死の恐怖」について、「福音」をもたらしてくれる言葉だと思います。
さて、大江健三郎さんといえば、故郷・愛媛県が生んだ偉人のお一人です。
ですが、私は、大江さんの本を、これまで一度も読んだことがありません。
いや、正確に言うと、大江さんのいくつかの本に手を伸ばしましたが、
私にはとても理解できそうにない文章とその内容で、とても最後まで読み通す自信はありませんでした。
今回のテキストは、分かりやすい解説でなんとか最後まで読み通せたものの、
大江さんの本は、私の知的レベルでは、これからも手にすることはないと思います‥‥。
大江健三郎 『燃えあがる緑の木』 2019年9月 (NHK100分de名著)
- 作者: 小野正嗣
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2019/08/24
- メディア: ムック
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