今日の日経新聞一面コラム「春秋」に、
フランクルの「夜と霧」のことが、次のように書かれていました。
『「夜と霧」を初めて手にしたときの衝撃を覚えている。
ナチスの強制収容所での体験を、精神医学者のV・E・フランクルがつづった本だ。
貨車に詰め込まれて収容所に到着する冒頭から魂を揺さぶるが、
旧版にあった巻末の写真もまた、この極限の悪を告発していた。
犠牲者が残した、おびただしい数の眼鏡や靴や義足。女性たちの大量の髪。
そして、うずたかく山をなしている人間の灰‥‥。
第2次大戦の末期、点在する収容所に入った連合国軍はこの光景をじかに目にした。
100万人以上が殺害されたアウシュビッツ強制収容所は1945年1月27日に解放され、
今年で75年がたつ。 ~ (以下、略) ~ 』
このコラムを読んで、深代惇郎さんが昭和50年9月16日に、
朝日新聞一面コラム「天声人語」で引用された、「夜と霧」の一節のことを思い出しました。
『‥‥もう一つ、夕焼けのことで忘れがたいのは、ドイツの強制収容所生活を体験した心理学者
囚人たちは飢えで死ぬか、ガス室に送られて殺されるという運命を知っていた。
だがそうした極限状況の中でも、美しさに感動することを忘れていない。
囚人たちが激しい労働と栄養失調で、収容所の土間に死んだように横たわっている。
そのとき、一人の仲間がとび込んできて、きょうの夕焼けのすばらしさをみんなに告げる。
これを聞いた囚人たちはよろよろと立ち上がり、外に出る。
向こうには「暗く燃え上がる美しい雲」がある。みんなは黙って、ただ空を眺めながめる。
息も絶え絶えといった状態にありながら、みんなが感動する。
数分の沈黙のあと、だれかが他の人に「世界って、どうしてこんなにきれいなんだろう」
と語りかけるという光景が描かれている。』
「夕焼けの美しさ」について書かれたこのコラムは、
深代惇郎さんのコラムのなかでも、傑作の一つだと思います。
「名文」は時が経っても、決して色褪せることがありません‥‥。