『ルリボシカミキリの青~福岡ハカセができるまで』(福岡伸一著:文春文庫)を読了しました。
昨年11月末に放映されたNHKスペシャル、「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険」で、
この本の中の一節が取り上げられ、それが強く心に響いたので、購読したものです。
読んでみると、期待に違わぬエッセイ集で、印象に残るたくさんの記述がありました。
例えば次のような‥‥。
・生物の基本仕様は女性であり、生物は女系で紡がれていた。しかるに男は後から作り出された。
遺伝子の使い走りとして。最初、男の役目は確かに運ぶだけでよかった。
やがて別の役割が付加されるようになった。せっかく行くのなら帰り道に何かを取ってきなさい。
食糧とか薪とか花とか石とかを。命ぜられるままに男は集めはじめた。
ついでにそれを密かに隠すことを覚えた。何も収穫がないときに怒られるのが怖いから。
つまり蒐集行動は、不足や欠乏に対する男の潜在的な恐怖の裏返しとして生まれ、現在にいたる。
同時に、交換や契約や記録、つまり経済も法律もここに発生した。
・真実はいつも、とても小さな声でしか語られないということなのであり、
それゆえそっと耳をすませなければならないということなのである。
そしてその声を聞き取るために必要なのは懐疑心的な心のあり方なのだ‥‥。
・チャンスは準備された心に降りたつ。
・教育。学び。子育て‥‥あるいは私たちの人生そのものも。そこに効率はなく、プロセスだけがある。
そして大切なのは一進一退のプロセスをいつくしむということなのだ。
・‥‥こうして考えてみると、なつかしさとは何かがおぼろげながら見えてくる。
ありありとそれが思い出されるのは、自覚するしないに拘わらず、何度も思い返して、
その都度強化しつづけているからである。
なつかしさとは、いとおしいペットのような自己の記憶なのだ。
時に人はそれに足をとられ、しかし時にそれは解毒剤のように
何かを溶かし慰撫してくれるものである。
はぃ、でも、やっぱり心にずっと残るのは、
先ほどのNHKスペシャルで紹介された、「好きなことがあることの大切さ」を説く、次の一節でした。
『私はたまたま虫好きが嵩じて生物学者になったけれど、
今、君が好きなことがそのまま職業に通じる必要は全くないんだ。
大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、
そしてその好きなことがずっと好きであり続けられることの旅程が、驚くほど豊かで、
君を一瞬たりともあきさせることがないということ。
そしてそれは静かに君を励まし続ける。最後の最後まで励まし続ける。』
なお、巻末の阿川佐和子さんの上質な解説も、この本の価値を高めていると感じました。
追 記蒐集行為とその隠ぺい行為が、男のDNAであることを知って、
少し安堵した気持ちになったのは、果たして私だけなのでしょうか‥‥?(苦笑)