昨日12日の朝日新聞一面コラム「折々のことば」は、詩人・石垣りんさんの
「不出来な私の過去のように 下手ですが精一ぱい 心をこめて描きました。」という言葉で、
いつものように鷲田清一さんの、次のような解説がありました。
『詩「不出来な絵」(詩集『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』所収)から。
「私」はここに描いた空を、湖を、木々を愛していると「きっぱり思つている」。
「下手だからみっともない」といった「世間体」など捨ててこの絵を「貴方にさしあげます」と。
祈りと慈しみを深々と湛(たた)えた眼差(まなざ)し。
射(さ)さずに撫(な)でるように、包むようにあるもの。』
石垣りんさんは、茨木のり子さんと並んで、私の好きな詩人の一人です。
このコラムを読んで、手元にある『石垣りん詩集』(伊藤比呂美編:岩波文庫)に掲載されている
「不出来な絵」の全文を、改めて読み返してみました。
『この絵を貴方にさしあげます 下手ですが 心をこめて描きました
向こうに見える一本の道 あそこに私の思いが通っております
その向こうに展けた空 うす紫とバラ色の あれは私の見た空、美しい空
それらをささえる湖と 湖につき出た青い岬 すべてが私が見、心に抱き そして愛した風景
あまりに不出来なこの絵を はずかしいと思えばとても上げられない
けれど貴方は欲しい、と言われる
~ (中略) ~
これもどうやら 私の過去を思わせる この絵の風景に日暮れがやってきても
この絵の風景に冬がきて 木々が裸になったとしても
ああ、愛してる まだ愛してる と、思うのです それだけ、それっきり
不出来な私の過去のように 下手ですが精一ぱい 心をこめて描きました。』
生きるのが下手で、何をするにも不器用な私には、いつ読んでも身に染みる一篇です。

- 作者:
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/11/18
- メディア: 文庫