長らく積読状態であった「ペスト」(カミュ著:新潮文庫)をようやく読了し、
同時に、2018年6月号のNHKテキスト、100分de名著「ペスト」を再読しました。
新潮文庫のこの小説の結末の文章と、
NHKテキストの執筆者である、中条省平・学習院大学教授の解説は、次のような内容でした。
『ペスト菌は決して死ぬことも、消滅することもないものであり、
数十年の間、家具や下着類のなかに眠りつつ生存することができ、
部屋や穴倉やトランクやハンカチや反故のなかに、しんぼう強く待ち続けていて、
そしておそらくはいつか、人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再び鼠どもを呼びさまし、
どこかの幸福な都市に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろうということも。』
『見きわめたものを決して忘れてはいけない。記憶しつづけることの大切さが、強い警告となって、
あたかも作者カミュ自身の言葉のように、読者に投げかけられます。
こうして物語はまた最初に戻り、
災厄はふたたび繰り返されるだろうということが暗示されています。天災は回帰するのです。
「決して死ぬことも消滅することもない」ペストという災厄が表すものは、
何度も述べてきたように、天災のみならず、人間の作りだす不条理も含んでおり、
すなわち、人間から自由を奪い、人間に死と苦痛をもたらすものすべての象徴です。
タルーが語った死刑や革命の暴力、殺人、さらには全体主義や恐怖政治、
絶望を受けいれそれに慣れてしまう状態、そして不可視の放射能もまた、
それらの不条理に含まれるはずです。』
う~む‥‥。「ペスト」を「新型コロナウイルス」と置き換えても、何の違和感もないのが、
不条理に生きる人間を描いた、カミュという作家とこの小説の凄さだと思います。
なお、この小説の中で、医師ベルナール・リウーは、
ペストと戦う唯一の方法は「誠実さ」であること、「自分の職責を果たすこと」だと、
新聞記者のランベールに語っています。(P245)
新型コロナウイルスという「不条理」と戦うためには、私たち一人一人に「誠実さ」が求められること、
この感染症がもたらす不幸から「教訓」を学ばなければならないこと、を教わったように思います。
- 作者:カミュ
- 発売日: 1969/10/30
- メディア: ペーパーバック
アルベール・カミュ『ペスト』 2018年6月 (100分 de 名著)
- 発売日: 2018/05/25
- メディア: ムック