一昨日25日の日経新聞「経済教室」に掲載された、小熊英二・慶応義塾大学教授の執筆による
「企業越えた人材評価基準を 日本型雇用改革の論点」という論考が勉強になりました。
小熊教授は、日本型雇用の根本問題は、
「人材に対する客観的な評価基準がないこと」だとして、次のように述べられています。
『‥‥少し考えてみよう。A社の中で職務を明確化し、評価基準を作ったとする。
だがそれがB社と全く互換性がなかったら、その職務に見合う人材はA社で社内育成するしかない。
A社専属の専門学校でも作らない限りは即戦力の新人も出てこない。
A社の経験や評価はB社で通用しないから、人材の流動性も高まらない。
社内教育で育成するなら長期雇用せざるを得ない。
新人採用も、面接を重ねて「人物」を見極めるほかない。
そうして育成された人材はB社では通用しないからA社にしがみつく。
人材は社内の部署を移動させて使い回すしかなく、職務ごとの専門能力は育たない。
これでは職務の明確化など空文化してしまうだろう。
つまり企業を越えた人材の評価基準がないために、企業を越えた労働市場が発達しない。
だから社内育成、新卒採用、長期雇用、社内人事異動に傾くしかない。
職務に即した評価基準がないなら、いちばん主観を交えない評価基準は、
卒業大学名と勤続年数(職種の経験年数ではなく特定企業の勤続年数)になるだろう。
いわば日本企業は各社が独立王国なのだ。
王国内でしか通用しない地域通貨を使い、各企業の社内労働市場を動かしている。
通貨の互換性なしに市場が生まれないように、
各社が独立王国である限り企業を越えた労働市場はできない。
理工系の一部人材以外はこの状態がなかなか変わらない。』
ではどうしたらいいのか?
小熊教授は、「人材評価の基準を明確化・客観化し、透明化することから始めるしかない」
として、「まず隗(かい)より始めよ」で、経団連加盟企業が率先し、
役員や部課長の公募を検討してはどうか、と提案されていました。
「それが無理なら、この先も変わらないだろう。」という論考の最後のこの一言は、
とても重いものがあります。
日本型雇用の改革は、今の現状では、残念ながら容易ではないことがよく理解できました。