NHKテキスト「100分de名著」の「カント~純粋理性批判」を読了しました。
原本はとても難しそうなので、私は読んだことがありませんが、
このテキストは、西先生が分かりやすく解説されていて、カント哲学の概要を知ることができました。
この日記に書き残しておきたい記述は多々あったのですが、
そのなかから、「カントが思い描いた理想郷」について書かれた、次の記述を選択することにしました。
『「実践理性批判」の結びに、有名な言葉があります。
わたしたちが頻繁に、そして長く熟考すればするほどに、
ますます新たな讃嘆と畏敬の念が心を満たす二つのものがある。
それはわが頭上の星辰をちりばめた天空と、わが内なる道徳法則である。
ここで引用したのは、カントの墓碑にも刻まれている一節です。
はるかなる宇宙と道徳的に生きることの価値を、
並列して高らかに謳っているのがなんともカントらしい。
カントは、道徳的に生きるという新しい理想を示しました。
あらためて確認しておけば、彼が実現すべき世界として思い描いていたのは、身分の上下がなく、
すべての人が自由で対等な存在として尊重しあい、調和して暮らしている世界です。
そこには明らかに、ルソーの自由な共和国のイメージが反映されていますが、
一国内での調和だけでなく、人類の調和まで射程に入れています。(「永遠平和のために」)。
そして彼は、この「道徳的世界の一員としてふさわしく行為すること」を、
新たな生き方の理想として、提示しようとしました。
個の道徳論には、次のようなメツセージがあったと私は思います‥‥
「どんなに貧しくても苦しくても、心正しく生きよ。
そこにこそ理性的存在者(叡智界の一員)としての誇りがあるのだ」。
また、「自分が正しいと判断したことは、まわりの人がすぐに納得してくれなくても、
とことん貫いて生きていけ」と。
カントの道徳思想は、社会のなかでの成功や富や評判にまどわされない、
人としての最高の生き方を示すことであり、
そして、新たな自由な生き方への呼びかけでもありました。』
う~む‥‥、これってまるで、洪自誠の「菜根譚」に出てくる、次の一節ではありませんか‥‥。
『道徳に棲守(せいしゅ)する者は、一時に寂寞(せきばく)たるも、
権勢に依阿(いあ)する者は、万古に凄涼(せいりょう)たり。
達人は物外の物を観じ、身後の身を思う。
寧(むし)ろ一時の寂寞を受くるも、万古の凄涼を取ること毋(なか)れ。(講談社学術文庫)』
西先生は、科学的な知や人間の価値の根拠を考えることは、
今後、ますます重要な課題となっていくはずで、
それについて大規模で体系的な構想をつくり上げたのは、
間違いなくカントであり「純粋理性批判」だと述べられていました。
哲学の面白さが少し分かったような‥‥、そんな気持ちにさせてくれる良書でした。
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