しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

文学の持つ喚起力

NHKテキストの100分de名著「ペストの記憶~デフォー」(武田将明著)を読了しました。

「ペストの記憶」は、「ロビンソン・クルーソー」などの名著の作者として知られる

18世紀イギリスの作家、ダニエル・デフォーが、

ロンドンの人口の2割が死亡したというペスト大流行の体験を後世の教訓にしようと、

膨大な資料を駆使して小説化した作品です。

テキストを読んで、教訓として覚えておくべきと思われた記述を、次のとおり書き残しておきます。


『昨今、「ニューノーマル」あるいは「新しい日常」という言い方をよく耳にします。

 コロナ禍によって、私たちの日常生活が根本的に変わった、というか変わらなければならない、

 というメッセージがそこに込められているようです。

 確かにコロナ禍は私たちの生活を決定的に変えたように思われますが、

 この「新しい日常」がいずれただの「日常」になったとき、

 私たちは再び未知の危険に対して無防備な状態に戻ってしまうのではないでしょうか。

 「ペストの記憶」から学ぶべきは、古い日常でも新しい日常でもなく、

 いわゆる文明社会における私たちの生の根っこにある脆さ、

 危うさをこれからも忘れずにいることではないかと思われます。』


『‥‥では、コロナ後において「ペストの記憶」が持つ価値とは何か。

 ここでは「都市文明の無意識」というキーワードを挙げたいと思います。

  ~ (中略) ~

 実際、一見整然とした都市の地下には、様々な災害の痕跡が埋まっているはずですが、

 現代を生きる私たちもまた、目に見えないものは忘れてしまいます。

 「ペストの記憶」には、そのような都市生活者の無意識をいい意味で搔き乱す側面があります。

 私は、この“記憶に訴える”ということこそ、文学の可能性だと思います。

 もちろん、実際の災害を記録した映像のインパクトは強烈ですし、

 かつての惨状を描いた絵画などにも価値があるでしょう。

 しかし、時が経ってからこれらを見ると、あまりに明示的であるために

 「過去にはこんなこともあったね」と確認するだけで終わってしまう可能性もある。

 「これは現代の問題じゃないか」という生々しい感覚は、

 かえって言葉だけで描かれたものから強く呼び起こされます。

 それこそが言葉の力であり、文学の持つ喚起力なのです。‥‥』


このコロナ禍においても、“記憶に訴える”文学作品が、

誰かの手によって書かれつつあるのでしょうね、きっと‥‥。

デフォーの「ペストの記憶」のように、後世に読み継がれる文学作品の出現を期待したいと思います。