しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

コロナ対策と集合知

今日の日経新聞オピニオン欄「核心」に、藤井彰夫・論説委員長の執筆による

「経済学者のコロナとの闘い~社会実装へ英知結集を」というタイトルの論評が掲載されていて、

読んで大変勉強になりました。論評の後半には、次のようなことが書かれていました。


『‥‥経済理論に基づいて「ワクチン接種予約は混乱の恐れがある先着順にすべきではない」

 という研究結果を得ていた東大の小島教授は

 「我々としては早くから発信していたつもりだが世間に広くは伝わらなかった」と反省する。

 もう少し早く情報が広がっていれば、

 自治体の予約システムの設計段階で先着順を避けられたかもしれないからだ。

 「失敗の本質」の著書がある経営学の泰斗、野中郁次郎一橋大名誉教授に

 今回の政府のコロナ対応について聞いたところ書面でこんな回答が返ってきた。

 政府のワクチン対応について「手続き優先主義や権限にこだわった権威主義

 セクショナリズムがワクチン接種の遅れをもたらしたのは本当に残念」と指摘。

 そのうえで「危機の際は直面する困難をいかに迅速に判断し、

 対処するかという《集合知》が求められる」として

 「組織の枠を超えた産官学民のスクラムを状況の変化にあわせて組むことが必要」と訴えている。

 危機はまだ収束していない。これ以上の失敗を重ねないためには日本の英知を結集する時だ。』


そして、日経新聞電子版には、危機時における《集合知》の大切さなど、

野中郁次郎・一橋大名誉教授の書面回答の詳細な内容が掲載されていました。

少々長くなりますが、私が勉強になった記述を、次のとおり引用させていただきます。


『‥‥危機には、直面する困難をいかに迅速に判断し、対処するかという《集合知》が求められる。

 危機においてはその判断がその後の情勢を方向づけ、後戻りできない「一回性」を持つ。

 何度もシミュレーションができる平時とは大きく異なる。

 だからこそ、《集合知》を機動的に創造することが肝になる。

 その出発点は、一人ひとりが、「いま・ここ」で、

 他者、モノ、環境すべてに直接経験によって向き合う共感だ。

 その共感が、新しい「意味」や「価値」などの本質を直観する源泉だ。

 現実の直接経験を通じて共感しあう能力は、身体をもたない人工知能(AI)には難しい。

 直観した本質を徹底的な対話(知的コンバット)を通じて、コンセプトや仮説をつくり、

 人間の自由な想像力とAIなどデジタルを駆使し、試行錯誤を通じて《集合知》へと磨き上げる。

 対話に参加した一人ひとりが責任を自覚し、やり抜くことで、個人にも組織にも暗黙知が蓄積されていく。

        ~(中略)~
 
 このような《集合知》を機動的に創造するプロセスをけん引するのは、

 先の読めない不確実な状況のなかで、最善の判断を下す知を意味する賢慮(フロネシス)だ。

 賢慮は、瞬時に局面が変わっても、現場における共感と知的論争で、

 臨機応変に突破口を見いだすリーダーシップだ。

 リーダーが危機においてタイムリーに判断し実行するには、未来創造に向けた道筋と、

 どう行動すべきかを示す「物語」(ナラティブ)を紡ぎ出し、語りかけなければならない。

 これをわれわれは、ヒューマナイジング・ストラテジー(戦略の人間化)と呼んでいる。

 コロナ対策で政府や自治体は決して無策ではない。

 ただ、その努力が国民に伝わっていないことも事実で、

 説明不足であることがますます国民の不信感を醸成している。

 リーダーたちには、大きな目的の実現にむけ、どのような筋書きで未来をつくり、

 一人ひとりにどんな行動が求められるのか、レトリックも駆使して描き出し、

 多くの関係者や国民を勇気づけ、鼓舞し、士気を高めてほしい。物語には話者の生き方が投影される。

 覚悟をもって我々に語りかけてほしい。

 今後肝心なのは、ルールや箱モノをつくることだけではない。

 有事や極限において賢慮のリーダーシップを発揮できる人材育成の場づくりと抜てきだ。

 われわれには、国家の危機に挑むために立ち上がった下級武士、そしてそんな彼らを抜てきした藩主が、

 共にスクラムを組んで命を懸けて乗り切った明治維新の伝統がある。

 成功と失敗も含めて徹底的に現場経験を積み、強いプロを育成していく、

 それがわれわれに課せられた責務だ。

 分析的な戦略論を超えた人間重視の構想と実践が求められている。』 


う~む、なるほど‥‥。

徹底的な対話(知的コンバット)、賢慮(フロネシス)、「物語」(ナラティブ)、

ヒューマナイジング・ストラテジー(戦略の人間化)ですか‥‥。

いろいろと印象深い言葉や記述があって勉強になりましたが、

やはり一番は、「物語には話者の生き方が投影される。」でしょうか‥‥。

余韻がたっぷりと残るお言葉だと思います。