昨日の日経新聞「オピニオン」欄、「エコノミスト360°視点」に掲載された
渡辺安虎・東京大学教授の執筆による『ワクチン接種にインセンティブを』というタイトルの記事が、
新型コロナワクチン接種と経済学の「公共財」の関連を知るうえで、とても勉強になりました。
『‥‥この問題(新型コロナワクチン接種に迷いを持つ層への接種をどう促すかという問題)を考えるため、
経済学の「公共財」という概念を説明したい。公園や道路のように誰もが便益を受けられ、
使いたいと思う人を排除できない財の性質を「非排除性」と呼び、
知識や空気のように多人数で使っても財から得られる便益が減らない性質を「非競合性」と呼ぶ。
そしてこれら2つの性質を兼ね備えた財を公共財と呼ぶ。
人口の一定割合が免疫を持つことで感染が広がりにくくなる集団免疫の状態は、典型的な公共財といえる。
社会が集団免疫を達成すればすべての人が便益を受けられ、その便益は減ることがないからである。
つまりワクチン接種は自分をウイルスから守るためだけでなく、
同じ社会を構成する他人のために公共財を供給する行為でもある。
しかし他人のために公共財を供給するインセンティブ(誘因)は、自然には生まれない。
それゆえ公共財の供給にはフリーライダー(ただ乗り)問題が発生する。
誰かがコストを負担して公共財を供給するなら、コストを払わずただ乗りし、
過少にしか公共財が供給されない問題だ。
通常の公共財ならば、ただ乗り問題を回避するために政府が税金から公共財を供給する解決策がある。
しかし集団免疫という公共財はインフラ整備と異なり、
私たち一人ひとりが様々な副反応のリスクを負いながら、
実際にワクチンを接種することでしか供給することができない。
さらに、集団免疫は人口の80~90%といった一定水準を超えないと達成できないとされている。
それ故に通常の公共財以上に過少供給は深刻な問題となる。
この条件で政府の役割は何だろうか。まずはワクチン接種の効果とリスクに関する正確な情報を提供し、
個人の判断を容易にすることだ。その上で接種のリスクを負担するコストを上回る誘因を与え、
ただ乗り問題による過少供給を防ぐことを検討すべきだ。
誘因とは具体的に、接種者と体質により接種できない人を対象とした様々な特典である。
特典を用意する上で最も重要なのは、接種した全員を対象にすると明示することである。
いくつかの国では新たな接種者だけを対象として特典が用意された。
これでは待てば待つほど大きな特典が得られると考え、接種時期を遅らせる人が出てきてしまう。
特典には「Go To」キャンペーンのような割引券を配る案も出ている。
ワクチン接種者だけがもらえる宝くじなど、他国の事例を参考にしてもいい。
他の先進国からワクチン接種が遅れたことで、皮肉にも他国から効果的な施策を学ぶことができる。
このことを最大限生かすべきだ。』
う~む、なるほど‥‥。集団免疫の状態は「公共財」なのですね。
ということは、2回目の接種後、発熱と倦怠感などの副反応に苦しんだ私も、
リスクを負担して公共財の供給に貢献したことになるのかしら‥‥?
一方で、「誘因としての特典」については、少し疑問というか、違和感があります。
記事にも書かれてはいますが、接種したくても体質的にできない人、
つまりは、公共財を供給できない人もいらっしゃると思います。
公平・公正で、しかも効果的な施策を立案することは本当に難しいことです‥‥。