『一匹のトンボが夏の終わりを告げるわけではない。一片の白雲が秋の到来を知らせるわけではない。‥』
これは、深代惇郎さんの「白雲愁色」と題した「天声人語」(昭和50年8月22日付け)の冒頭の文章で、
私のお気に入りの文章の一つです。
「白雲愁色」は、安倍仲麻呂の死を悼んだ李白の詩「明日帰らず 碧海に沈み 白雲愁色 蒼梧に満つ」
に登場する言葉で、さきほどのコラムでは、安倍仲麻呂の苦難に満ちた生涯のことも書かれていました。
今日、早朝の雨上がりの空を見上げると、北西の方角に、きれいな「鱗(うろこ)雲」が見えました。
「鱗雲」は秋の季語です。「一片の白雲」が、本格的な秋の訪れを告げているかのようでした‥‥。