今日の日経新聞「文化」欄に、亀山郁夫・名古屋外国語大学長が、
『世界とドストエフスキー』という随想を寄稿されていました。
そのなかで亀山先生は、次のようなことを述べられていました。
『‥‥では、世界に遍(あまね)く広がるドストエフスキー人気の秘密とは何なのか。
それを簡潔に表そうとすれば、もはや模範解答めいた答えしか浮かばない。
病める人間への洞察力と人間の生命の絶対性への揺るぎない信念。
巨視的には、二極化という時代相の類似も見逃せない。
皮肉なことに、グローバル時代が生んだ極端な格差社会は、21世紀の歩みを、
19世紀の帝政ロシア時代へと後戻りさせてしまった。
~ (中略) ~
‥‥作家はさらに、分断から社会を救う手立てを「文化」の力に求めた。
「わが国に、真の、ほんものの文化があったなら、
わが国にはいかなる分断もけっして生じなかったのではないか」
ここでいう「文化」とは、人々の魂と心を照らし、生きる道を示す「精神の光」を意味する。
翻って、私たちの現代に、瓦解や分断を解消に導く「真の文化」を探り当てることは可能だろうか。
否――。そうはいえ、現実に「瓦解」と「分断」は、私たちの生活を日々刻々蝕(むしば)み、
「海」は濁り続けている。
生命の価値に対する想像力の枯渇、「ポスト真実」の恐るべき倒錯、
民族差別、横行する詐欺、急増する自殺。
思うに、生誕200年祭は、こうした厳しい状況のただなかで祝われているのだ。
試練はコロナ禍だけではない。
~ (中略) ~
‥‥脳裏で、喜ばしい予感がはじけた。われらがドストエフスキーこそ、
グローバル社会の「分断」を融和する「精神の光」たりうるのではないか、と。
むろん現段階でそれは、私の過大な幻想にすぎない。
しかしいずれ、爆発的に進化するAIの力を借りて彼の作品が少数言語に訳され、
地球の隅々で「カラマーゾフ、万歳!」の叫びがこだまする時代が訪れるかもしれない。‥‥』
NHKEテレ100分de名著『ドストエフスキー~カラマーゾフの兄弟』を今月に再視聴して、
番組指南役の亀山先生が翻訳された
『カラマーゾフの兄弟1(光文社古典新訳文庫)を先日、購入したばかりです。
大学生の時以来の再読となりますが、亀山先生のおっしゃる「精神の光」を感じ取れるかどうか、
自分の精神的な成長も確認しながら、「新訳」を読み進めていきたいと思っています。