しんちゃんの老いじたく日記

昭和30年生まれ。愛媛県伊予郡松前町出身の元地方公務員です。

憲法記念日と昭和精神史

『昭和精神史 戦後篇』(桶谷秀昭著:文藝春秋)を読了しました。


本書の読了後には付箋だらけになりましたが、そのなかでも強く印象に残った記述を以下に書き残します。

・日本人がたたかったあの戦争は、それが悲惨な敗北にをわったにせよ、大東亜戦争なのであり、

 アメリカの世界戦略の一環としての太平洋戦争ではなかった。

 大東亜戦争が蔵した真実と虚偽、あるいは理想とその転落をふりかえるのは、

 大東亜戦争を生きた日本人の体験の内側からのみ可能なのである。

 大東亜戦争を太平洋戦争に差し換へる呼称の変更は、日本人が自己の歴史的体験をあいまいにし、

 ついには果てしない自虐と自嘲のうちに日本人のとしての自己同一性を失う結果しかもたらさない。

・人間は体験の幅を超える概念を容易に了解しないが、

 さうでないときはその概念の欺瞞性には眼をつむつても、蟹が甲羅に似せて穴を掘るように、

 自分の体験に似せてそれを受け入れる。

 戦火がもたらした廃墟と住むに家なく、着るものも食べるものもない窮状の原因を、

 「侵略戦争」という汚名に求めて、遣り場のない憤懣と絶望をいやさうとした。

 「侵略戦争」を企てたのは一群の戦争犯罪人であつて日本国民ではないとふアポロギアも

 東京裁判史観が抜け目なく用意してゐた。

記紀神話の否定と歴史の回想の封殺が、改定憲法第一条の「象徴」天皇規定の布石となつた。

・平和であれ何であれ、およそ「崇高な理想を深く自覚する」者が、

 自分の「安全と生存」を他人にゆだねようと「決意」するなどといふことは、

 正常な人間精神の本来からすればありえないことである。

 理想の「自覚」といふものはさういふ他力本願を拒否するものである。

 さふいうおめでたい他力本願を抱くことは、

 ことさら「決意」といふ悲痛な心のはたらきを必要としないのである。

・観念ではなくて、生活において日本が消滅すれば自分が無になってしまふ、さういふ感覚を、

 生き延びた時間の中で、人はさまざまに処理した。

 戦争への憎悪は、そのもつとも人の心をとらへた感情である。

 その感情を輿論に組織する占領権力のはたらきかけは、矢継ぎばやであつた。

・人はむざんな失敗と敗北において、なほ運命から見捨てられないが、

 ひややかな認識と分別に立つ救ひの願望は、それじたい運命から見捨てられてゐることがある。

・思想をイデオロギイから抽出することはきはめてむづかしい。

 思想をその発生に見るとき、思想は個人に属してゐる。その思想が強力であるとき、それは個人から離れ、

 ある観念組織あるいはマルクスのいふ虚偽意識として伝播し普及する。この運命をまぬがれない。

 イデオロギイにならない思想は個人の内側にとどまり、血肉化されて、

 気質とわかちがたいかたちで存在する。日本の文学者の思想の大部分はこれである。

・六〇年反安保闘争は、政治闘争でありながら、その実質は精神革命の運動であつた。

 この闘争を日米新安保条約の成立、不成立といふ政治的結果にのみ的をしぼれば、

 勝敗は、はじめから分かり切つてゐた。

 条約発効の成否にかかわりなく、日本民族の精神的体質が変わることが、

 勝利か敗北化を決める決め手になるはずであつた。

・公認の漠然とした戦後意識に亀裂が生じた。

 その裂け目を凝視する眼に、闇の中から日本といふ過去の記憶が浮かびあがつてきた。

 それが十五年の時空をへだてて記憶の構造にあらためて組み込まれようとした内的葛藤の、

 意識的なあるいは無意識的な迅速な過程が、

 (昭和三十五年)五月十九日から六月十五日にいたる短い昂揚期を頂点とする精神の運動であった。

 それは以後、昭和の精神史に国民大の体験としては二度と起こらなかった。

・戦後の知性の代表である丸山眞男には、その論文にみるかぎり、

 ニヒリストで何であれ、悲劇感覚が欠如してゐる。

・ひとりの人間、あるいは一民族が滅びるのは、理想によつてである。

 自堕落によって、人も民族も滅びはしない。滅びることができない。

 ただ酔生夢死の醜態をさらすだけである。高橋和巳が抱いてゐたのは、理想の悲劇性といふ主題である。

・そのあかるい明治の精神は、日露戦争の峠を越えることができなかつた。

 坂の上の青い空に輝いてゐる白い雲は、日露戦争後に消えるのである。

 そのことを司馬遼太郎は知ってゐるので、日露戦争後の日本と日本人を書かなかった。


前作の『昭和精神史』を読んで深く感銘を受けてから、3年という月日が経過しました。

今日は憲法記念日‥。1947年(昭和22年)の今日、日本国憲法が施行されたことによります。

このタイミングで「戦後の精神史」を振り返ることができ、とても良かったと思っています‥‥。

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