古書店で手に入れた『マチネの終わりに』(平野啓一郎著:毎日新聞出版)を読了しました。
強く印象に残った記述や会話のうちの「三つ」を、次のとおり書き残しておこうと思います。
『なるほど、恋の効能は、人を謙虚にさせることだった。
年齢とともに人が恋愛から遠ざかってしまうのは、愛したいという情熱の枯渇より、
愛されるために自分に何が欠けているのかという、
10代の頃ならば誰もが知っているあの澄んだ自意識の煩悶を鈍化させてしまうからである。』
『孤独というのは、つまりは、この世界への影響力の欠如の意識だった。
自分の存在が、他者に対して、まったく影響を持ち得ないということ。持ち得なかったと知ること。
ーー同時代に対する水平的な影響力だけでなく、次の時代への時間的な、垂直的な影響力。
それが、他者の存在のどこを探ってみても、見出せないということ。』
『運命とは、幸福であろうと、不幸であろうと、「なぜか?」と問われるべき何かである。
そして、答えの分からぬ当人は、いずれにせよ、自分がそれに値するからなのだろうかと
考えぬわけにはいかなかった。』
『自由意志というのは、未来に対してはなくてはならない希望だ。
自分には、何かが出来るはずだと、人間は信じる必要がある。そうだね?
しかし洋子、だからこそ、過去に対しては悔恨となる。何か出来たはずではなかったか、と。
運命論の法が、慰めになることもある。(洋子の父・ソリッチの言葉)』
はぃ、文句のつけようのない素晴らしい小説でした。
洗練された美しい文章で書かれた登場人物の心理描写は、特に読みごたえがありました。
二人が再会を果たす感動的なラストシーンも、長く余韻として残った次第です‥‥。
著者の底知れない才能を、改めて認識することになりました‥‥。